【徹底解説】日本農業をとりまく外部環境と日本農業の現状
食料安全保障等農業に関心があつまっていますが、今回、日本農業をとりまく外部環境と現状について解説します。
日本農業の現状、実態と特徴を調べることで、日本の問題点が分ります。
日本農業の現状についての正確な理解にもとづくき、将来のための日本農業の課題と対策の検討ができます。
目次
Ⅰ.日本農業をとりまく外部環境
農業政策、世界の農業、TPPについて農林水産省の資料にもとづき分析します。
1.農業政策
(1)農業政策の変遷[1]
戦後農政の流れ 戦後の農政は、以下の4つに大別できる。
①終戦後から農業基本法制定まで(1945~61年)
終戦後のめざましい経済成長のもと、農業と他産業との間の生産性と従事者の生 活水準の格差是正を目的として、農業基本法が1961年に制定
②農業基本法のもとでの農政展開(1961~80年)
需要が見込まれる畜産や果樹、野菜等の生産の拡大や、農業従事者が他産業従事 者と均衡する所得を確保できる規模拡大の推進等が展開
③国際化の進展と食料・農業・農村基本法の制定(1980~99年)
急速な経済成長と国際化の著しい進展等により我が国経済社会は大きな変化を遂 げ、農政をめぐる状況が大きく変化するなか、1999年に食料・農業・農村基本法が 制定
食料・農業・農村基本計画が策定され、効率的かつ安定的な農業経営が農業生産 の相当部分を担う農業構造の確立を目指し、各般の施策が展開
④食料・農業・農村基本法の理念に基づく施策の具体化(1999~2008年)
グローバル化が一層進展するなか、食料・農業・農村をめぐる情勢変化を受け、 2005年に新たな基本計画が策定
2007年度からは新たな経営所得安定対策や米政策改革推進対策、農地・水・環境 保全向上対策の農政改革三対策が開始
(2)食料・農業・農村基本法[2]
〇 食料・農業・農村基本法は、農業政策の基本的な方向を示すものとして、平成11年に制 定されたものである。
(法律制定当時(90年代)の経済情勢と、WTO体制の下での自由貿易の進展等を背景としている。)
〇 現在の農業施策(担い手の育成・確保、農村振興など)は、この法律に基づいて実施さ れており、この中では、食料自給率の向上を図ることも規定されている。
5年毎に施策の見直し
食料自給率目標(45%)
①食料の安定供給の確保
国内生産、輸入、備蓄を組み合わせ、食料を安定供給
多面的機能
②多面的機能の十分な発揮
環境保全など食料供給以外の機能の充実
③農業の持続的な発展
効率的・安定的な農業経営(担い手)の育成による農業の発展
・望ましい農業構造の確立
・専ら農業を営む者等による農業経営の展開
・農地の確保・有効利用
④農村の振興
食料生産が行われる農村の生産
・農村の総合的な振興
2.日本農業の世界との比較
日本農業を世界と比較し、日本農業の特徴を整理します。
(1)世界の農業大国について[3]
「農産物輸出上位ランキング」を紹介します。
1位:アメリカ 1,449億ドル
2位:オランダ 866億ドル
3位:ブラジル 801億ドル
4位:ドイツ 793億ドル
5位:フランス 702億ドル
ちなみに上記のランキングにおいて、日本は33億ドルで57位です。
(2)日本農業の特徴
①農地面積の狭さ
アメリカやオーストラリアと比較しても、国土が狭いのは地図を見れば一目瞭然です。
そのうえ日本は山林が多く、また人口が多いため農地に割ける面積が少ないのです。
戸あたりの耕地面積で言えば、世界的に見ても下位に位置します。
農用地面積[4]
農林水産省の資料によると、ヨーロッパの農業大国といわれる5ヵ国の2017年の農用地面積は、いずれも国土の4~7割を農地が占めています。
・フランス:2,870万ha 国土の52.3%
・ドイツ:1,669万ha 国土の46.7%
・イギリス:1,747万ha 国土の71.7%
・スペイン:2,630万ha 国土の52.0%
・イタリア1,283万ha 国土の42.6%
なお、同年の日本の農用地面積は444万ha、国土の11.8%でヨーロッパの農業大国よりかなり小さいです。
農家戸数と平均経営規模 [5]
・フランス:52万7000戸/52.1ha(農家戸数/平均経営規模)
・ドイツ:37.1万戸/45.7ha
・イギリス:30万戸/53.8ha
・スペイン:104.4万戸/23.8ha
・イタリア:167.9万戸/7.6ha
一方同年の日本の農家戸数は260.5万戸、平均経営規模は1.7haで、ヨーロッパの農業大国よりかなり小さいです。
②食料自給率の低さ
我が国の食料自給率は全体でも約40%ですが、穀物に着目すると約30%になっているのが現状です。
特にトウモロコシや大豆などはほぼすべてを輸入に頼っています。
食料自給率の推移[6]
我が国の食料自給率は、米の消費が減少する一方で、畜産物や油脂類の消費が増大する等の食生活の変化により、長期的には低下傾向が続いてきましたが、2000年代に入ってからは概ね横ばい傾向で推移しています。
3.TPPの影響
TPPは元々、太平洋を囲む国々のうち、ブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポール、日本、アメリカ、カナダ、メキシコ、ペルー、オーストラリア、マレーシア、ベトナムの計12ヶ国の間で、包括的でバランスの取れた協定を目指し、交渉が進められてきました。
日本は2013年に交渉に参加し、2017年1月にTPP協定を締結しました。
しかし、同時期にアメリカのトランプ大統領がTPPからの離脱を表明しました。その後、アメリカ以外の11ヶ国で交渉を進め、2018年12月に「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)」という名で発効されました。
安い外国産の農作物や、付加価値の高い農作物が日本に大量に入って来る可能性もあります。ただし、米や小麦といったに関してはこれまでの税率を維持する重要5品目*1のような例もあります。
*1:重要5品目
「米」「麦」「牛肉・豚肉」「乳製品」「甘味資源作物」の5品目のことを指します。これは、日本が各国と交渉をするなかで、日本国内の農業を保護するために関税の維持や例外措置を求めたものです。
Ⅱ.日本農業の現状
農業従事者、農地、農業経営について、高齢化・農地集積・集約化・低い農業所得等の現状を分析します。
1.農業従事者[7]
(1)基幹的農業従事者
基幹的農業従事者*2は減少傾向。
2020年は136万⼈
*2: 15歳以上の世帯員のうち、ふだん仕事として主に⾃営農業に従事している者
年齢階層別基幹的農業従事者数
2020年の年齢階層別基幹的農業従事者数を 2015年の5歳若い階層と⽐較すると、69歳以下の 各階層では微増。
20〜49歳層は12.4万⼈から 14.7万⼈に増加。
⼈数の多い70歳以上の階層の 減少率が⾼い。
(2)農業経営体
農業経営体全体の数は減少傾向にあり、 2020年に108万経営体。
経営形態別に経営耕地⾯積の割合を⾒ると、主業経営体と法⼈経営体の合計は増加傾向で 推移。
2.農地[7]
(1)農地面積
農地⾯積は減少傾向にあ り、2021年に435万ha。
⾯積の減少率は⾸都圏や⻄ ⽇本の都府県において⼤き い。
1経営体当たりの経営耕地⾯積は、借⼊耕地⾯ 積の増加もあり、拡⼤傾向。
経営規模別に⾒ると、最も⼤きな割合を占める0.5〜1.0ha層の経営体数が⼤きく減少、 ⼀⽅で10ha以上の層の経営体数は増加傾向。
法⼈経営体について⾒ると、全農業経営体に⽐べて規模が⼤きい層の経営体が多く、 かつ、増加傾向。
2021年の農地⾯積は、前年に⽐べ2.3万ha減少し435万ha。
2020年の荒廃農地⾯積は、 前年並みの28.2万ha。再⽣利⽤困難な荒廃農地が増加傾向。
(2)担い⼿等への農地集積・集約化
農地中間管理機構(農地バンク)を創設した2014年度以降、 担い⼿への農地集積率は年々上昇し、2020年度末時点で 58%。
(3)農業生産基盤整備[8]
水田の整備状況について、令和元(2019)年における、50a程度以上の大区画整備済み面積は26万haであり、その割合は11%となりました。
また、暗渠(あんきょ)排水の設置等による汎用化が行われた水田面積は110万haで、その割合は46%となりました。
一方、畑整備状況は、令和元(2019)年における畑地かんがい施設の整備済み面積は49万haであり、畑面積全体(200万ha)の24%となりました。また、区画整備済み面積は、128万haであり、その割合は64%となりました(図表2-6-4)。
3.農業経営[7]
(1)農業所得
販売⾦額別の経営体数販売⾦額別の経営体数は、⼩ さい階層で減少傾向にあるのに 対して、3,000万円以上の階層 では増加傾向。
販売⾦額3,000 万円以上の経営体数は、特に稲 作や野菜作等の耕種部⾨で増加。
主業経営体1経営体当たりの農業粗収益
2020年の主業経営体1経営体当たりの農業粗収益は作物収⼊の増加等から1,994万円に増 加。農業経営費の荷造運賃⼿数料の増加等により農業所得は415万円に減少。
経営部⾨別に⾒ると、⽔⽥作で279万円、露地野菜作で418万円、酪農で774万円、養 豚で2,501万円。粗収益の増加と併せ、経営費の削減に向けた経営実態の把握と分析、改 善に向けた取組も必要。
2020年の法⼈経営体1経営体当たりの農業粗収益は1億1,101万円に増加。農業経営費は 飼料費等が増加したことから1億778万円に増加。農業所得は323万円に増加。
(2)規模別⼟地⽣産性(⽔⽥作・露地野菜作)
⽔⽥作では規模が⼤きい層ほど⼟地⽣産性(⾯積当たりの付加価値額)は⾼い。所得向上を図るためには、⼤区画化や農地の集約化等とともに、経営データの活⽤等のスマート農 業の促進等により、⽣産性を⼀層向上させることが重要。
露地野菜作では規模が⼤きい層ほど労働⽣産性(時間当たりの付加価値額)が⾼いが、 20ha以上では低下。露地野菜作全体の経営規模の拡⼤のためには、20ha以上層において、 更に労働⽣産性が向上するよう、労働時間の短縮、業務の効率化に向けた取組が必要。
(3)⽶と野菜の価格の動向
⽶と野菜の価格の動向を1990年以降の農業物 価指数でみると、⽶はおおむね低下傾向で推移 している⼀⽅、野菜は、⻑期的には上昇傾向に あるが、近年は豊作等により価格が低下。
(4)品⽬構成
農業総産出額は⽶の割合が減少し、畜産や野菜の割合が増加傾向。
都道府県別に⾒ても、1960年はほぼ全ての都道府県で⽶が農業産出額の1位品⽬であっ たが、2020年は⼤半の都道府県で畜産、野菜、果実が1位品⽬と変化。
品⽬別の作付⾯積について、⽶は減少傾向 で推移する⼀⽅で、⻨、⼤⾖は微増傾向、野 菜は微減傾向で推移。
(5)有機農業
化学農薬の使⽤量(リスク換算)低減に向け、化学農薬 のみに依存しない病害⾍の総合防除の取組や、リスクの より低い農薬の開発等を推進。
化学肥料の使⽤量低減に向け、家畜排せつ物等の未利 ⽤有機性資源の循環利⽤や、ドローンによるセンシング に基づく可変施肥等の取組を推進。
有機農業について、2018年度の取組⾯積は23.7千ha、 全耕地⾯積に占める割合は0.5%。
まとめ
日本農業の特徴として、農業戸数が多く耕作面積が狭いです。
また、高齢化、農業者の減少、食料自給率が低い、等の問題があります。
労働生産性向上と高付加価値化により、日本の農業外部環境に対応する必要性があります。
正確な現状理解にもとづく課題と対策の検討をし、解決しなければなりません。
出展:
[1]:農業政策の変遷(農林水産省)
[2]:食料・農業・農村基本法について
[3]:農林水産物・食品の輸出の現状
[4]:農林水産省「海外農業情報 主要国・地域別の農業概況
[5]:農林水産政策研究所「平成22年度 世界の食料需給の中長期的な見通しに関する研究 研究報告書 第14章 EU」
[6]:日本の食料自給率(農林水産省)
[7]:令和3年度 ⾷料・農業・農村⽩書の概要
[8]:第6節 農業の成長産業化や国土強靱化に資する農業生産基盤整備