中小企業のDX進め方

DXに取り組んだのに、思ったほど成果が出ていない。そんな悩みを持つ中小企業は少なくありません。
実は、DXは始め方を間違えると失敗しやすい取り組みです。経営者の関わり方や目的の決め方で、結果は大きく変わります。

本記事では、DXが失敗する理由と、成功するための進め方を解説します。初めてDXに取り組む方にも分かりやすく紹介します。

Ⅰ . DXが「期待外れ」に終わる真の理由

DXが「期待外れ」に終わる真の理由
DXが「期待外れ」に終わる真の理由DXが「期待外れ」に終わる真の理由

1.データが示すDXの成功率:日本企業の現在地[1]

日本国内でDX(デジタルトランスフォーレーション)の重要性が叫ばれて久しく、多くの企業が取り組みを開始しています。しかし、その「成果」に目を向けると、日本企業が直面している厳しい現実が浮かび上がってきます。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査(2024年発表)に基づき、DXの取り組み状況を整理しました。

項目2021年度2022年度2023年度米国(2022年度)
DX取組企業の割合55.8%73.7%
成果が出ている企業の割合49.5%58.0%64.3%89.0%
成果が出ていない企業の割合22.6%24.7%15.0%6.6%

調査によると、DXに取り組む日本企業の割合は73.7%まで上昇しており、DXはもはや「特別な施策」ではなく「企業の標準」になりつつあります。一方で、成果を感じている企業の割合は64.3%に留まっており、米国企業の89.0%という数字と比較すると、依然として大きな開きがあります。

特に注目すべきは、取組企業の約15%が「明確に成果が出ていない」と回答している点です。これは、単なる導入遅れではなく、投じた投資やリソースが「空振り」に終わっている可能性を示唆しています。

2.DX進め方失敗の主な原因

DXに取り組む企業が増える一方で、約15%の企業が「成果が出ていない」と回答している現実があります。では、なぜDXは失敗するのでしょうか。ここでは、統計データと事例から明らかになった6つの主要因を解説します。

① 経営者の関与不足と推進体制の不在

DX推進は、現場任せでは成功しません。

中小企業白書2023年版[2]では、DX推進部署が「経営部門(経営者含む)」である企業が最も多く、推進担当者が不在の企業はDX進捗が著しく遅れていると指摘されています。

全てを現場任せにすると、以下の問題が発生します:

  • 経営ビジョンと現場施策の乖離
  • 実行する社員のモチベーション低下
  • 部門間の連携不足による非効率

経営層がトップダウンで意思決定し、明確な方向性を示すことが不可欠です。 実際に、経営層にITの知見のある人材がいる企業ほど、DXの成果が出やすいというデータも存在します。

② DXの目的やビジョンが不明確

「何のためのDXか」が明確でなければ、投資は無駄に終わります。

中小企業白書2023年版[2]によると、デジタル化のビジョン・目標を定めている企業では約9割が効果を実感している一方、ビジョンを定めていない企業では効果の実感が大幅に低下しています。特に従業員20人以下の企業では、ビジョンを定めている割合が2割未満という実態があります。

中小企業白書2023年版

経済産業省の「デジタルガバナンス・コード実践の手引き」[3]でも、5年後、10年後を見据えた経営ビジョンの策定が強調されています。ビジョンが不明確なまま場当たり的にツールを導入しても、以下の問題に直面します:

  • 導入システムが自社の課題に合わない
  • 従業員がツールの利用価値を理解できない
  • 投資の費用対効果が測定できない

DXは単なるIT導入ではなく、組織とビジネスモデルの変革です。中長期的な視点で「どうなりたいか」を明確にすることが、変革への第一歩となります。

③ 既存の組織文化とのギャップ

DXは技術導入ではなく、企業文化の変革です。

これまでのやり方に固執する組織では、変化への抵抗が大きくなります。社員がDXの意義を理解できていなければ、以下の状況に陥ります:

  • 新システムが現場で活用されない
  • デジタル化への消極的な姿勢
  • 変革マインドの欠如

解決策: 変革をスムーズに進めるには、DXのメリットを現場に丁寧に説明し、段階的に取り組むことが重要です。小さな成功体験を積み重ねることで、組織全体の意識を徐々に変えていくアプローチが効果的です。

④ デジタル人材の不足

「構想は組めたが実行できない」—これが多くの中小企業が直面する現実です。

東京商工会議所「デジタルシフト・DX実態調査報告書(2024)」[4]および中小企業基盤整備機構の調査[5]では、DX推進における最大の課題として「デジタル人材の不足」が上位に挙げられています。

中小企業が抱える人材課題:

  • IT専門部署や人材の確保が困難
  • 既存業務と兼任でDXを進める限界
  • 外部人材の活用も進んでいない

IPA「DX白書2021」[6]でも、多くの企業が「DXを推進する人材の不足」をボトルネックとして挙げています。十分な時間やリソースが割けず、プロジェクトが停滞するケースが後を絶ちません。

中小企業のDX推進に関する調査(2024年)

IPA「DX白書2021

⑤ 運用・導入ノウハウの不足

知識がなければ、適切な支援さえ依頼できません。

中小企業に多いのが、デジタル技術を習得したDX経験豊富な人材がいないという問題です。社内にデジタル人材が不足していると、以下の悪循環に陥ります:

  • 「何から始めたら良いかわからない」
  • 外部に支援を依頼しても、適切な形で依頼できない
  • 導入したツールを使いこなせない

ノウハウ不足は、人材不足と密接に関連しており、DX推進の大きな障壁となっています。

⑥ コスト負担への懸念

「投資しても成果が見えない」という不安が、DXを阻んでいます。

東京商工会議所「デジタルシフト・DX実態調査報告書(2024)」では、「コスト負担」がDX推進の最大の障壁であると回答した企業が最多となり、前回調査(2023年)より順位が上昇しています。

東京商工会議所『デジタルシフト・DX実態調査報告書(2024)

中小企業が直面するコスト課題:

  • 初期投資や運用コストの高さ
  • 費用対効果が見えづらい
  • 「投資資金が最後まで持たなかった」
  • 「思っていた費用対効果が得られなかった」

DXは大規模なプロジェクトであり、十分な資金投資が必要です。しかし、投資が不十分だと全てが中途半端となり、不完全なDXで終わってしまいます。投資資金が適正かどうかの検討は極めて重要です。

これらの6つの原因は相互に関連しており、一つの問題が他の問題を悪化させる悪循環を生み出します。 中小企業がDXを成功させるためには、これらの根本的な課題に正面から向き合い、経営者主導で明確なビジョンと戦略を策定し、段階的に取り組んでいくことが不可欠です。


Ⅱ.DX進め方成功のための実践ポイント

DX成功のための実践ポイント
DX成功のための実践ポイント

DXの失敗原因を理解したところで、次は「どうすれば成功できるのか」という実践的な対策を見ていきましょう。統計データと成功企業の事例から導き出されたポイントを解説します。

1.戦略:DXの土台を作る

① 経営者がリーダーシップを発揮する

DX成功の第一条件は、経営者自身が旗振り役となることです。

経営者がリーダーシップを発揮すべき理由:

  • 現場の協力と理解が得られやすくなる
  • 全社的な推進体制を作れる
  • 予算や人材配分の意思決定がスムーズになる

具体的なアクション:

  1. 自ら率先して参加する:新しいツールやシステムを、まず経営陣が使いこなし、積極的に活用する姿勢を見せる
  2. 目的を明確に共有する:DXをなぜ進めるのか、どんなメリットがあるのかを社員にわかりやすく伝える
  3. 成功事例を広める:部署やチームで起きた良い変化を、他の社員にも共有してやる気を高める
  4. 全社的な取り組みを促す:定期的にDXの進み具合を全社で確認し、一体感を持って進める

経済産業省の「デジタルガバナンス・コード実践の手引き」[3]でも、中堅・中小企業は経営者がリーダーシップを発揮することで、大企業に比べてスピード感を持って変革を進めやすいと指摘されています。

② 中長期的な戦略を立てる

DXは短距離走ではなく、マラソンです。

DXは単に新しいシステムを導入するだけではなく、会社全体の働き方や業務の流れを変えていく取り組みです。すぐに結果を求めるのではなく、5年後・10年後を見据えた計画が必要です。

中長期戦略の進め方:

  1. 現状を見直す:どんな業務が改善できるのか、今抱えている課題を洗い出す
  2. ゴールを描く:5年後、10年後の会社の理想像をイメージし、目指す方向性を決める
  3. 計画を分ける:長期的な目標を実現するために、段階的に達成すべき小さな目標を設定する
  4. 定期的に振り返る:計画が進む中で、環境や状況の変化に応じて内容を調整する

試行錯誤を繰り返し、成功体験を積み重ねていくことで、ノウハウを蓄積し、人材を確保・育成し、組織を拡大させていきましょう。

③ 最短かつ低コストな方法を選ぶ

「デジタル化」自体を目的にしてはいけません。

DXの本当の目的は、業務を効率化することや顧客により良い製品・サービスを届けることです。しかし、「DXをやるぞ!」となると、デジタル化自体が目的になってしまい、自社にマッチしない大掛かりなシステムを導入してしまうケースが少なくありません。

最適な方法を選ぶ視点:

  • そもそもその業務は必要か
  • 効率化のインパクトは大きいか
  • クラウドサービス(SaaS)の導入で解決できないか
  • 小規模な試験導入で仮説を検証できないか

大規模なシステム開発をせずに効率化を実現できるのならそれがベストです。全社単位での経営の視点や戦略的な思考が必要になります。

④ スモールスタートと成果の可視化

小さく始めて、成功を積み重ねる—これが中小企業の勝ちパターンです。

中小企業基盤整備機構の2024年調査[5]では、DXを推進する企業のうち「まず業務デジタル化を実施」とした企業が全体の35.7%で最多となっており、その後、データ活用・ビジネス変革へ拡大する流れが共通しています。

中小企業基盤整備機構『中小企業のDX推進調査に関する(2024年)』[5]

スモールスタートの進め方:

  1. 始めやすい業務を選ぶ:経理や総務などのバックオフィス業務を対象に、小さな改善を行う(例:勤怠管理のシステム化や書類のデジタル化)
  2. 試験的に進める:特定のチームや部署で新しいツールやシステムを試し、様子を見ながら導入を進める
  3. 効果を確認する:実際にどれだけ効率が上がったのかを数字やフィードバックで確認する
  4. 全体に広げる:成功した取り組みを他の部署や全社に展開する

一度に全社的な変革を行おうとすると、大きな負担や失敗リスクが伴います。小さな成功であっても、その成果を社内で共有し、他の部門にも徐々に展開していくことで、組織全体のDXへの意欲を高めましょう。

2.戦術:実行フェーズで大切なこと

① 現場を巻き込む

現場の協力なくして、DXの成功はありません。

現場を巻き込むことが重要な理由:

  • 意識改革と主体性向上:現場がDXを自分たちの課題解決や業務改善につながるものと認識することで、抵抗感がなくなり、主体的にデジタル技術を活用するようになる
  • 業務への最適化:現場の業務実態を最も理解しているのは現場の担当者。彼らの知見を取り入れることで、導入するデジタル技術が現場の業務に無理なく適用される
  • ツールの定着と効果の最大化:現場が使いこなせないとDXは成功しない。現場の意見を取り入れたツール選定が、投資対効果を最大化する

現場を巻き込むためのステップ:

  1. 目的の明確化と共有:なぜDXが必要なのか、それによって現場のどのような課題が解決されるのかを明確にし、経営層から一貫したメッセージとして伝える
  2. トップダウンとボトムアップの融合:経営層による強いリーダーシップのもと、現場の担当者がDX推進に主体的に関われる機会を設ける
  3. 成功体験の創出:小さな業務からデジタル化を進め、具体的な成果を現場で体験してもらうことで、DXへの理解を深める

② 小さな成功体験を積み上げる

初期の成功が、組織全体のやる気を劇的に高めます。

成功体験を積み上げる進め方:

  1. 効果を検証する:導入したシステムや新しい取り組みが、どれだけ成果を出しているのかを定期的に確認する
  2. 徐々に拡大:小規模の成功事例を他の部署にも広げていく(例:営業チームで試したツールを、全社的に導入)
  3. 経験を記録に残す:成功したポイントや課題を記録して、次の取り組みに活かす
  4. フィードバックを活用:社員からの意見や改善案を取り入れながら、より良い形に進化させる

DXには正解が一つではありません。自社に合った方法を見つけるためには、小さく始めて少しずつ改善していくことが大切です。

③ デジタル人材を育成・確保する

人材なくして、DXなし。

中小企業基盤整備機構の2024年調査では、「IT人材が足りない」がDX推進の最大の障壁とされており、25.4%の企業が課題として挙げています。

人材確保の3つの方向性:

  1. 社内人材のリスキリング:既存社員にデジタルスキルを習得させる研修や実地研修(OJT)を実施
  2. 外部人材の活用:DX経験豊富な人材を採用または業務委託で確保
  3. ITベンダーとの連携:信頼できるITベンダーをパートナーとして、技術的な支援を受ける

人材への投資は、DX成功への最も確実な投資です。社内にデジタル人材を育成することで、長期的な競争力を築くことができます。

④ 専門家のサポートを活用する

一人で悩まず、専門家の力を借りましょう。

中小企業のDX化には、DX推進をサポートしてくれる伴走者の存在が欠かせません。必要な伴走者は、経営支援機関やITコーディネータ、データアナリストなどです。行政や中小企業基盤整備機構などで情報を得ると良いでしょう。

伴走者がもたらすメリット:

  • 組織や業務プロセスの課題を客観的に分析
  • 経営者自身の変革をサポート
  • 現状課題とビジョンを明確化
  • 最適なツールやサービスの選定を支援

経済産業省の「デジタルガバナンス・コード実践の手引き」[3]でも、外部の視点の導入や適切な支援者との出会いが、経営者が変革に取り組むきっかけとなる気づきを得られる重要な要素であると指摘されています。

専門家の力を借りながら、着実に前進していきましょう。

まとめ

DXは、特別な会社だけの取り組みではありません。中小企業でも、正しいDX進め方をすれば必ず成果につながります。
大切なのは、
・経営者が関わること
・目的をはっきりさせること
・小さく始めること
です。
一気に変えようとせず、できるところから始めてください。小さな成功の積み重ねが、会社を強くします。
「自社でもできるだろうか」と感じた方は、まず身近な業務から見直してみましょう。
DXは、会社の未来をつくるための第一歩です。

出展:

[1]:DX動向2024(IPA 独立行政法人 情報処理推進機構)
[2]:中小企業白書2023年版
[3]:経済産業省の「デジタルガバナンス・コード実践の手引き」
[4]:東京商工会議所「デジタルシフト・DX実態調査報告書(2024)
[5]:中小企業の DX 推進に関する調査(2024 年)
[6]:IPA「DX白書2021」