中小製造業の現状および課題と対応

企業の数でいえば中小企業は、全体の企業数の99%以上を占める圧倒的多数派です。
また中小企業に勤める労働者は、全体の7割近くを占め、売上高は全体の40%以上です。

中小企業のなかで、製造業は全体の約20%です。
そこで、中小製造業の課題とその対応は、日本にとって非常に重要です。

この記事では、製造業の外部環境、中小製造業の現状、中小製造業の課題と対応について、中小製造業の持続的成長の視点で解説します。

Ⅰ.製造業の外部環境[1]

製造業の外部環境
製造業の外部環境

1.我が国製造業の足下の状況

(1)業況

・業況は、2020年下半期から2021年にかけ大企業製造業を中心に回復基調にあったが、 2022年に入り、大企業製造業・中小製造業ともに減少に転じた。

・製造事業者の営業利益は、コロナ禍等の影響で減少傾向にあったが、2021年度は半数近くの 企業で回復に転じた。

(2)生産

・鉱工業生産は、2020年5月に底を打った後は回復基調にあったが、2021年後半には世界的 な半導体不足等の影響を受けて悪化。

・事業に影響を及ぼす社会情勢の変化として、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に加え、原材 料価格の高騰や、半導体などの部素材不足などの影響が大きくなっている。

(3)設備投資

・設備投資額は、2020年前半に大きく落ち込んだ後、足下では回復傾向にある。

2.製造業を取り巻く事業環境の変化

(1)原油価格の高騰

・ウクライナ情勢の緊迫により、元々上昇傾向にあった原油価格が更に高騰し、その影響は、素 材系の業種を中心に生産コストの増加につながっている。

(2)部素材不足

・2021年から様々な部素材不足が発生し、特に半導体不足の影響は、加工組立製造業だけで なく、基礎素材製造業まで幅広く及んだ。

(3)デジタル化

・製造業のIT投資は横ばいだが、IT投資で解決したい課題は「働き方改革」、「社内コミュニケー ション強化」から、「ビジネスモデルの変革」に移行するなど、経営者の意識の変化がうかがえる。

・中小企業も含めたサプライチェーン全体のサイバーセキュリティ対策が重要性を増している一方、 ウイルス対策ソフト等、既存の対策では脅威を防ぎきれていないのが実態。

(4)カーボンニュートラル

・2021年に開催されたCOP26等、カーボンニュートラルの実現に向けた国際的な議論が進展・ 具体化し、150を越える国・地域がカーボンニュートラルを宣言。

3.人材確保・育成

(1)雇用と就業動向等

・製造業の就業者数は、約20年間で157万人の減少。全産業に占める製造業の就業者割合も、 約20年間で3.4ポイントの低下。

・製造業における若年就業者数は、約20年間で121万人減少。 製造業の全就業者に占める若 年就業者の割合は、2012年頃から25%程度とほぼ横ばいで推移。

・製造業における高齢就業者数は、約20年間で33万人増加。製造業の全就業者に占める高齢 就業者の割合は、2018年頃から9%弱とほぼ横ばいで推移。

Ⅱ.中小製造業の現状

中小製造業の現状
中小製造業の現状

1.中堅・中小企業の現状[2]

(1)中小企業の労働生産性

労働生産性の推移(()は前年度比)

中小企業の労働生産性(従業員一人当たりの付加価値額)は低迷。
大企業との格差が拡大。
足下では、米中対立やコロナの影響等で、全体として生産性が低下。

中小企業の労働生産性
中小企業の労働生産性

(2)事業再生・事業承継

中小企業の経営者年齢

中小企業の経営者年齢は年々高まっており、事業承継が喫緊の課題。

中小企業の経営者年齢
中小企業の経営者年齢

(3)若者等の人材確保

若者採用の充足率

大企業に比べ、中堅・中小企業の新卒採用充足率は悪い。
中堅企業も0割が最も多く、5割未満が過半数を占める。

中小企業の新卒採用充足率
中小企業の新卒採用充足率

2.中小製造業の企業数[3]

経済産業省「工業統計表」に基づき、中小製造業の企業数の推移を見ていく。図を見ると、中小製造業の企業数は、2000年から2009年まで減少傾向にあり、特に、2009年は、企業数が大幅に減少している。また、2000年からの企業数の増減率を従業者規模別に見ると、おおむね従業者規模が小さな企業ほど企業数が減少していることが分かる。

第3-1-1図従業者規模別の中小製造業の企業数の推移
図従業者規模別の中小製造業の企業数の推移

 

3.市場規模

(1)金属加工製品販売額[4]

国内の金属プレス加工販売額は、2017 年以降急激な伸びを示している。引き続き、金属加工業が国内生産で好調を維 持し生き残りを図るためには、国内での生産ニーズを見極め、これに対応できるものづくり経営力を整備していくことが必要である。

国内の金属プレス加工販売額の推移
国内の金属プレス加工販売額の推移

Ⅲ.中小製造業の課題と対応

中小製造業の課題と対応
中小製造業の課題と対応

1.生産性向上

生産年齢人口の減少が叫ばれていますが、このままつづけば将来的に労働力の確保が困難になります。

企業競争力を失わないためには、生産性の向上に取り組み、少ない人材でより多くの案件に対応できるような仕組みを構築することが大切です。

(1)生産の効率化

生産ラインの自動化・ロボット化は、生産性を向上させる手段として有効です。

・人の作業によって時間がかかっている
・工程が多く非効率である

といった作業工程を、ロボットや自動化設備の導入によることによって、生産性が大きく向上します。

(2)ボトルネック工程の改善

ボトルネック工程を解消することで、ライン全体の生産性を向上させることができます。

・工程ごとの仕掛り品の滞留
・各工程の作業量、人員のアンバランス

等について見える化し、その中でボトルネック工程を見つけて改善するようにしましょう。

(3)IoTによる見える化

IoT化が実現すれば、生産工程のデータを収集・分析できます。

データから問題ある業務・工程を抽出し、自動化・効率化するといったことが可能です。

2.高品質化

(1)加工精度向上

・最新IT機器に欠かせない超機密な部品
・自動車でムダのない動力を伝える部品
等、様々な業界で常に高い精度の部品ニーズが高まっています。

研削盤や切削加工機等の工作機械は加工時発熱し、これらが機械各部へ複雑に熱伝導します。
これらの熱影響に対し、主要部分に温度セ ンサーまたは位置測定センサーをつけて、リアルタイ ムに制御し高精度加工を実現します。
その他現象に応じた対策と測定精度の向上等で、高精度加工が図られています。

(2)製造不良の改善

製造不良には、切削加工不良、鋳造不良、溶接不良等があります。

切削加工の加工不良の主な原因には、「切粉」「ビビり」「バリ」「チッピング」「構成刃先」があげられます。
工具選定や切削条件等を最適化することで防止します。

鋳造品には割れやへこみ、出っ張りなど表面に現れる欠陥や、内部に空洞ができる欠陥など様々な形状の欠陥が現れます。
注湯温度や冷却速度の最適化、鋳型を還元性雰囲気に保つ等の対策が必要です。

溶接時の欠陥は大きく表面欠陥と内部欠陥に分けられます。
溶接時の欠陥を防ぐため、接合する部材の相性をふまえた材料選定や、部材の品質ばらつきを抑えた調達・管理が必要です。
加えて、温湿度などの変化に対応するため、溶接作業時の加工条件の調整が図られています。

3.販路拡大

(1)製品開発

中小企業の新事業展開への取組の実態[5]

中小企業の新事業展開の実施状況を 見てみると、四つの戦略の中では、新製品開発戦略の実施割合が最も高く、次いで、新市場開拓戦 略となっている

新事業展開実施の実施状況
新事業展開実施の実施状況
中小企業の新事業展開実施の背景と効果[5]

新事業展開に成功している中小企業では、 「新しい柱となる事業の創出」が67.9%、「顧客・ 取引先の要請やニーズへの対応」が64.9%となっ ており、新事業展開に成功していない企業よりも 回答割合が高くなっている。

新事業展開実施の背景
新事業展開実施の背景

新事業 展開に成功していない企業は、市場の縮小や競争 激化といった、自社の外部的要因から検討を始め ている傾向にあるのに対して、新事業展開に成功 している企業は顧客等の外部からの要請に加え て、新たな収益源の確保という自発的な要因によ り新事業展開を検討する傾向にあることが推察さ れる。

新製品開発

製造業が成長を果たす上で効果の高い戦略として挙げられるのが、市場において圧倒的な優位性を有する自社製品の開発です。

そのためには、競合他社が解決策を提示できていない顧客の潜在的なニーズをみつけ、自社が有する技術力や生産管理能力を使って解決することです。
顧客の潜在的なニーズとは、製造工程上どうしても解決しなければならない問題でありながら、根本的な解決策が見つからないまま場当たり的な対応をしている、あるいは放置しているというような ものです。

(2)取引先分散

1社または数少ない取引先に限定すると、取引先の経営悪化の影響をもろに受けたり、取引上強く出ることができなくなったりというリスクがあります。
これらのリスクを回避するために、常に新規の取引先やほかの業界などへのアプローチを行い、取引先の分散を図りましょう。
適切な取引先数を確保することにより、売上の安定確保と同時に売上拡大を実現できます。

中小企業の販売先数と取引依存度別に売上高の増加率[6]

販売先数と取引依存度別*1に売上高の増加率を見ると、販売先数が151社以上の企業や51~150社の企業においては取引依存度が「30%超~50%」の企業で売上高の増加率が最も高くなっている。

*1:取引依存度=最も多く取引している販売先への販売額÷総売上高×100

販売先数と取引依存度別の売上高の増加率
販売先数と取引依存度別の売上高の増加率

まとめ

中小製造業は「生産性向上」「高品質化」「販路拡大」の3つの課題を抱えています。

課題の解決には、現状を踏まえた技術的・営業的対応が求められます。

・生産性向上には、生産の効率化、ボトルネック工程の改善、IoTによる見える化
・高品質化には、加工精度向上、製造不良の改善
・販路拡大には、製品開発、取引先分散

等です。

これら対応を効果的にするには、競合を差別化するための改革が必要です。

出展:
[1]:ものづくり白書概要2022年
[2]:中堅・中小企業の現状と課題(内閣官房内閣広報室)
[3]:中小製造業の現状(中小企業白書H24第1節 )
[4]:経済産業省金属加工統計
[5]:2017年版中小企業白書第2部中小企業のライフサイクル第3章新事業展開の促進
[6]:2020年版中小企業白書 第2部新たな価値を生み出す中小企業 第3章付加価値の獲得に向けた取引関係の構築第3節 取引関係と中小企業