スタートアップ企業ヤプリの起業プロセスにあったIT起業成功の本質
起業をしようとするとき、誰でも夢は持っていると思いますが、どのような苦難や危機があるか不安でもあると思います。
そのなかで、実例を学ぶのも、具体的に得るものも大きいのではないでしょうか。
今回は、日本を代表するスタートアップ企業、ヤプリを取り上げました。
ヤプリの起業プロセス、成功の秘訣について紹介します。
具体的に書きましたので、参考にしてノウハウやヒントをつかんでください。
1.企業概要(ヤプリ)
創業者(共同):庵原 保文/佐野 将史/黒田 真澄
2010年に庵原氏の想いに共感し、3名で起業しアプリプラットフォームを開発。
2013年4月ファストメディア株式会社(現株式会社ヤプリ)を創業し、Yappli提供開始。
代表取締役(CEO)庵原 保文(庵原)
新卒で出版社に入社後、ヤフー株式会社にてメディア領域の企画を担当。
その後、シティバンクのマーケティング事業に従事。
株式会社ヤプリの株式16.55%所有し、株式価値41億円(2022年4月18日株価1,996円)
取締役(CTO)佐野 将史(佐野)
「ヤフー株式会社」に新卒入社。
Yahoo!ファイナンスの先進的なiOSアプリやスマートフォンサイトを開発。
株式会社ヤプリの株式16.55%所有し、株式価値41億円(2022年4月18日株価1,996円)
黒田 真澄(黒田)株式会社ヤプリを退社(2022年3月まで株式会社ヤプリの取締役)
ライブドア株式会社を経てヤフー株式会社の制作職リーダー。
株式会社ヤプリの株式5.21%所有し、株式価値13億円(2022年4月18日株価1,996円)
会社名: 株式会社ヤプリ
2021年12月期
資本金 :25億4,494万円
売上高 :3,263(百万円)
当期純利益:△940
従業員数 : 215人
アプリ導入実績 :600社以上
累計ダウンロード数:約1億DL
ミッション: Mobile Tech For All(モバイルテクノロジーで世の中をもっと便利に、もっと楽しく)
事業内容
アプリプラットフォーム「Yappli」を 2013年4月リリース
ヤプリは、ノーコード(プログラミング不要)のアプリプラットフォーム「Yappli」を提供しています。
ノーコードで素早くアプリを開発できるだけでなく、誰でも簡単に運用ができる管理画面や分析機能の提供、クラウド経由で日々アップデートされる機能群、そして顧客の成功を支援するカスタマーサクセスまで総合的な機能を提供し、日本はもちろん世界を見渡しても非常にユニークなプロダクトとなっています。
人気のアパレルブランドから銀行まで、幅広い業種で日本を代表する様々な企業にご利用頂いています。
2.起業プロセス
(1)ビジネスアイデア
(庵原)2010年ごろ、iPhoneが登場して2年が経ち、日本でもApp Storeが登場し始めたころでした。
2人の友人から「カタログショッピングのアプリを作れないか?」と相談されたんですが、偶然にも双方とも同じような仕様のアプリだったんです。
その時に個別でひとつずつ作るのではなくて、『何の苦労もなくドラッグ&ドロップだけで自分が作りたいアプリを作れるCMSのようなプラットフォーム』を提供してあげることができたら、すごく革新的じゃないかと考えました。
Webサイトを簡単に作れるCMSはいくつもあるので、アプリでも同じようなものがあるのではないかと探してみたものの、見つけられなかった。[1]
(2)商品開発
開発の経緯(創業までの2年間の開発期間(2010年から2012年))
毎週六本木ヒルズにある打ち合わせスペースに集まって、打ち合わせをして次の週までに各自がアウトプットを出してくるというやり方で開発しました。
(庵原)この2年間は今振り返っても間違いなく「人生で1番大変な2年間」でした。
やろうとしていたことがすごく複雑で大きなシステムだったため、仕様書が何百枚も必要で、その作業に約半年。
そのタイミングで、もう1人の創業者であるデザイナーの黒田が参画して、デザインテンプレートを作り始めたのですが、何百ページものコーディングをするのにさらに半年。最後に佐野がプログラミングをして、トータルで2年かかりました。
Yappliの場合はアプリを作るためのデータを入れる『重厚な管理画面』、そのデータを反映する『iOS版のアプリ』、そして『Android版のアプリ』の3つが必要になるんです。
これは3つのサービスを同時に開発するような大変さでした。ただでさえ業務量が多く難しい上に、当時はまだ全員が会社勤めをしていました。
本業以外の時間を使って進めていたこともあって、予想以上に時間がかかってしまったんです。[1]
商品(「Yappli」)
「Yappli」は、ノーコードのアプリプラットフォームです。
利用者はアプリの開発から運用、データ分析に至るまでをクラウド上で行う事ができます。
特徴
① スピード開発
従来の1/10の期間でiOSとAndroidネイティブアプリをストア公開。
② カンタン運用
管理画面上でドラッグアンドドロップと画像のアップロード、テキストの入力といった簡単な操作だけで、ネイティブコードで書かれたスマートフォンアプリを作成し、App Storeへの申請可能。
作成しているアプリをiPhoneの実機でリアルタイムにテスト。
③ 多彩なプッシュ通知
GPSの位置情報をもとに、特定のエリアに入った際にプッシュ通知を行う「ジオプッシュ」。
FacebookやTwitterのフィード配信や画像の表示。
Passbookに対応したクーポンの発行。
④ 高度なデータ分析
ユーザー行動やアクションに基づきデータ分析。
自社データとの統合も可能。
⑤ クラウドで進化
年間200回以上の機能改善。
最新OSにも即座にアップデート対応。
⑥ サクセス支援
専門チームが集客や活用方法などを支援し、成功へコミット。
(3)ユーザー検証
ユーザー評価
当初は個人向けのBtoCサービスとして、広く浅く届けるビジネスモデルを考えてたというヤプリ。
しかし、思うような結果は付いてこなかった。
(庵原)一つの方向性として始めたのが、サービスの付加価値を高くして法人に販売する BtoBサービスでした。
とはいえ、toBサービスとしても最初からいきなりうまくいったわけではありませんでした。
メディア業界を対象に薄利多売でシェアを伸ばそうとするも、市場が小さすぎて失敗。
次に攻めた音楽業界でも、業界全体のシステムへの投資金額の費用感が、ヤプリが求める単価感とマッチせず頓挫。[2]
PMF(プロダクトマーケットフィット)に到達(2015年)
(庵原)2年間苦しみ続けた結果、ようやくPMFを発見することができました。
たまたま遭遇した古い知人の紹介で、有名アパレルブランド「niko and ...」に提案できることになりました。
すると、先方がちょうど顧客接点を増やすためにアプリ開発を検討していたタイミングで、Yappliが深く刺さったんです。
「3度目の正直だ」と思って先方の要望に従ってクーポン機能を開発したところ…これが大当たり。
クライアントの費用対効果を大きく向上させることに成功し、店舗で何千回も使ってもらえる機能になりました。
アパレルブランドでの成功をきっかけに、PMFへの道を辿ることになりました。[2]
(4)マーケティング戦略
ターゲット
最初はスモールビジネスや個人、オンライン方式の販売で低単価でした。
創業から3年目(2015年)に、法人向けのBtoBサービスに切り替え、これによりターゲットが定まり売り上げが増えていきました。
ポジショニング
ヤプリの強み
強みは⾮常に⾼い柔軟性と簡易性を兼ね備えた、本当にユニークで独⾃性のあるサービスを 提供していることです。
ヤプリのサービスは⼤企業でも⽇々採⽤が進んでいるプラットフォームなので、基本的にはエンター プライズ向けの製品です。
普通エンタープライズになると、カスタマイズとかより複雑な要件が求められますが、ヤプリはそう いったものに答えられるような柔軟なデザインやシステムを提供しています。
さらに、ノーコードによる簡易性という、この組み合わせが抜群にうまくて、ノーコードだけど⼤ ⼿でも使える⾮常にユニークなプラットフォームという独⾃性を兼ね備えて持っています。
競合環境
昨今、スマートフォンアプリの市場拡大により、複数の企業が類似するサービスを提供しておりますが、主に中小企業向けの機能に留まっており、中~大企業に向けて提供する企業は業界にも当社のみです。
従って、ヤプリの主な競合は、スクラッチでネイティブアプリの開発を行うシステムインテグレータとなります。
システムインテグレータとは提供するサービスの特性上、明確な差別化(プログラミング不要で開発・運用・分析を一手に担えるプラットフォーム、個別のカスタマイズは行わない代わりにYappli上で活用できる機能を継続的に拡充、サクセス支援、自動OSアップデート、毎月継続型の料金体系など)を実現しており、市場においてユニークな立ち位置を築いています。
プロモーション
(庵原)ヤプリは当初、中小企業をターゲットにオンラインベースで販売をかけ、低価格でサービスを提供する「セルフサーブ(=自分で作る)」という手法を取っていました。
しかし、創業から3年が経った頃(2015年)、Salesforce Ventures(セールスフォース・ベンチャーズ)日本代表の浅田慎二氏から「君たちのアプリ、全然簡単じゃないよ」と指摘をいただき、中小企業にオンラインで自発的に使ってもらえるようなサービスではなかったのだと気がつきました。
そこで、ターゲットユーザーを大企業に限定へとシフトしました。
販売戦略も大きく変更し、より価値を理解してもらうために料金表を非開示にして、営業による対面での販売へと変えました。
大企業の場合、顧客単価が高く、一社あたりの獲得コストを多くかけられるので、展示会やイベントをはじめとしたオフラインマーケティングも積極的に行うようにしました。
稟議プロセスや意思決定が複雑なエンタープライズの方にとって、オンラインでいきなり購入するのはハードルが高いため、リアルな接点を持つことが重要です。
それゆえ、マーケティング施策として展示会や自社イベントへの投資を増やしていきました。
ヤプリが行っているオフラインマーケティング施策は主に3つです。
展示会、カンファレンス、そして年に3回開催している自社イベントです。
展示会で獲得したリードに対しては、その後もリアルでの接点を増やし、ヤプリのファンへとナーチャリングしていく。
まず、企業の重役が集うような招待制のカンファレンスで、新機能や成功事例を発表し、期待感を高めてもらう。
そして、最も密にコミュニケーションが取れる自社イベントで、親密度を深める。
自社イベントでは、できる限り関係値を深めるため、必ず懇親会もセットで行うようにしている。[2]
(5)組織作り
シードステージ(2010年~2014年)
シティバンク(庵原)やヤフー(佐野、黒田)に勤務しながら、週末と就業後共同開発。
2013年4月創業・Yappli提供開始後、Yappliのユーザー検証を実施。
2013年4月創業時、社員は共同創業者の3人。
(黒田)その時期はまだ起業をすごく意識していたわけではなくて、「とにかく面白いものができればいいな」というのと、「折角やり始めたから形にしたい」という気持ちが強かったです。
メンバーも良かったし、自分がやってきたことも活かせればと。[4]
アーリーステージ(2015年~2017年)
2015年法人向けのBtoBサービスに切り替えたところ売り上げが上昇し、PMFへ到達。
3.3億円を資金調達し開発体制を強化、社員30人
ミドルステージ(2018年~2019年)
2019年、30億円調達。
プロダクト本部(=開発本部)としては全社の約1/3で、プロダクト開発に重きを置く体制。
社員数は150名程度に拡大。
(6)資金調達
シード(2010年~2014年)
2010年~2012年:Yappliの開発時は資金調達の見込みもなく、初期の資金は庵原氏自身のお金を使用。
2013年4月:YJキャピタル株式会社より、約3,000万円の資金調達。
ヤプリ設立当初はアプリの市場規模が小さく、資金調達にも苦労しました。
設立メンバーのみで2年間生き残れる分の資金を調達し、製品開発に集中しました。[5]
シリーズA(2015年~2017年)
2015年9月:株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ、Salesforce Ventures、YJキャピタル株式会社、個人投資家の川田尚吾氏より、総額3.3億円の資金調達。
toCからtoB向けにシフトし、安定成長の軌道へ。
2017年10月:株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズをリード投資家とし、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社、YJキャピタル株式会社 、川田尚吾氏、一部みずほ銀行等からの融資を合わせ、総額約6.7億円の資金調達。
エンタープライズ(大企業)の利用が増えたことでPMF達成が見え、グロースを行う。
シリーズB(2018年~2019年)
2019年6月:Eight Roads Ventures Japan(旧 Fidelity Growth Partners Japan)をリード投資家とし、SMBCベンチャーキャピタル、既存株主(株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ、YJキャピタル株式会社 )を引受先とした第三者割当増資と、みずほ銀行、りそな銀行、日本政策金融公庫からのデットファイナンスを合わせ、約30億円の資金調達。
事業拡大を実施、マーケティングと開発に投資。
IPO・上場(2020年)
2020年12月:東京証券取引所マザーズへの上場。
(7)ビジネスモデル
「Yappli」の利用者はヤプリに対して、毎月のプラットフォーム利用料を支払う必要があります。つまり、ヤプリはサブスクリプション収益がメインのビジネスモデルです。
「Yappli」の解約率は0.8%前半でマーケティング支援ツールとしての解約率はかなり優れた数値を叩き出しています。
製品価値
株式会社ヤプリは、アプリ開発・運用・分析をノーコード(プログラミング不要)で提供するアプリプラットフォーム「Yappli」を運営しています。
導入企業は550社を超え、店舗やEコマースなどのマーケティング支援から、社内や取引先とのコミュニケーションをモバイルで刷新する社内DX(デジタルトランスフォーメーション)、バックオフィスや学校法人の支援まで、幅広い業界の課題解決に活用されています。
Yappli for Marketing
店舗やECの顧客体験をスマートフォンアプリで向上させるサービスです。
オンライン/オフライン問わず、顧客と常につながることのできる強力なマーケティングチャネルを構築します。
Yappli for Company
スマートフォンアプリで”社内の現場で起きている非効率”を解決するサービスです。
商品や研修内容、社内報等の情報を従業員や取引先に向けて自社アプリで発信します。
収益の流れ
料⾦体系
アプリに対して課⾦をしており、まず導⼊⽀援をする初期制作費⽤をいただいております。 これはショットでいただくワンタイムのものです。
それに加えて、⽉額利⽤料をいただいております。 いわゆる MRR、ARR を作るものでして、基本システム利⽤料、そしてその上にオプション機能の 利⽤料でアップセルするという料⾦体系になっております。
自社の活動
機能改善
年間200以上のアップデート。
2週間に1度は「改善」にコミット 『Yappli』としてあるべき姿に向かい、機能改善・仕様の判断に落とし込んでいます。
アニメーション、入力項目、レイアウトなど、一定ラインまで『Yappli』側で決めています。
一方で、色設定や文字サイズ、余白の設定は顧客に合わせて編集可能にするというような、線引きをしています。[3]
カスタマーサクセス支援
プロダクト本部がベストな製品を作り、それを顧客が使いこなして各社を成功へ導く必要があります。
製品の導入支援はもちろん、継続的な顧客の課題解決と成功のために伴走し、支援する専門チームがカスタマーサクセスになります。
3.起業成功の秘訣
商品(Yappli)
Yappliはノーコードだけど、カスタマイズとか複雑な要件が実現でき、エンタープライズでも使える⾮常にユニークなスマホプラットフォームという独⾃性を兼ね備えて持っています。
特徴として、
・AndroidとiOSのネイティブアプリを高速開発
・直感的な操作で、更新可能
・柔軟なデザインやシステムを提供
・多彩なプッシュ通知
・高度なデータ分析
等の競争優位性があり、ヤプリのグロースに寄与しています。
ビジネスモデル
ヤプリは、ターゲットを中小からエンタープライズへ変え、平均単価を大きくしています。
また、初期制作費⽤をショットでいただくワンタイム利⽤料金と、⽉額利⽤料、基本システム利⽤料、そしてその上にオプション機能の利⽤料のサブスクリプション料⾦体系により、売上が安定しています。
資金調達
ヤプリは、
シード:2013年4月ヤプリ設立直後3000万円出資をうけ、製品開発に集中
シリーズA:2015年9月総額3.3億円の資金調達で、開発体制を強化し新機能なども提供
シリーズB:2019年6月約30億円の資金調達で、事業拡大、マーケティングと開発に投資
等の資金調達により、エンタープライズ用の機能強化への投資と、着実なグロースを達成しています。
まとめ
スタートアップ企業ヤプリの起業について
・起業プロセス
・成功の秘訣
について整理しました。
機会をとらえて起業し、よきパートナーを得て成長し、的確な資金調達をしてグロースしています。
スタートアップ企業といえども、基本は同じです。
参考になる点をあなたなりに取り入れて、是非起業を成功させて下さい。
出展:ヤプリHP
ヤプリ2021 年 12 ⽉期 通期決算説明資料
ヤプリ2021 年 12 ⽉期 有価証券報告書
[1]:"プロダクトマーケットフィットが見つからなかった" ーー 前年比300%成長のヤプリが乗り越えた困難とこれからの挑戦
[2]:「理想のチャーンレート」だけを追い求めるな。3年連続300%成長のヤプリが語る、SaaSスタートアップが乗り越えるべきハードシングス
[3]:「ヤプリ」グロース徹底解剖! コロナ禍にも強い、SaaSプロダクトの戦い方
[4]:ユーザーがワクワクする仕掛けをデザインするーーヤプリが創業から大切にしていること
[5]:ヤプリ代表・庵原保文氏の功績