【完全解説】業種・IT起業事例にみる起業成功の秘訣(前編)
起業すること自体はそれほど難しいことではありませんが、それを成功させるのは大変です。
起業しても3年以内におよそ7割の会社が消えていくと言われています。
「IT起業したいけど、業種はどうしたらよいかわからない」「自分は普通の人だから、IT起業できるのだろうか…」
まずは、成功している起業家たちから、起業までの経過、起業当時の苦労、マーケティング戦略、起業成功の秘訣を学んでみてはいかがでしょうか。
今回は、ウェブサイト制作・デザイン会社、4つのマッチングプラットホーム会社、オンライン問屋の6成功事例を紹介しています。
本記事を読めば、IT業種ごとのビジネスモデル、サービス形態、集客法が明確になります。
そして、業種の選択ができ、起業が現実的になりますよ。
目次
1.地道なプロモーション活動で認知度向上、ウェブサイト制作・デザインのナ-ドワード社[1]
(1)ナ-ドワード社(業種:IT)の会社概要
会社名: 株式会社ナ-ドワード社
住所: 東京都杉並区高円寺南2-19-30
事業内容: ウェブサイト制作・商品企画・デザイン
起業者: 國安淳史
創業日:2018年4月4日
経営理念:愛と想像力をもって、ものごとを編集し、ひとの役に立つ[2]
(2)ナ-ドワード社(業種:IT)起業までの経緯
國安氏は、外資系ITメーカー、ヘルスケア メーカー、PC周辺機器メーカーと一貫して メーカーのウェブマーケティング・広報部門 で20年近くの経験を積んできた。
外資系IT メーカーではウェブデザインやマーケティ ングを担当、転職したヘルスケアメーカーで はeコマースの管理・調達や商品開発・マー ケティングを行った。
さらにPC周辺機器メーカーではeコマー スを含めたインターネット事業全般と広報 宣伝部門を担い、部長職として商品企画か ら商品開発、ウェブマーケティング全般を担 当した。
実家が家業を営んでおり、社会人になっ た時点から、「漠然と自分で何かしらしたい と思っていた」と國安氏。創業を目指して、 外資系ITメーカーからヘルスケア、PC周辺 機器と異なる業界で様々な商習慣を経験で きた。
一定の「経験値を積めた」ことを確信 したことで、最後に入社した3社目で具体的に 「創業の準備を始めました」と國安氏は当時 を振り返る。
情報収集を行いつつ、「すでに創業前から 発注は得ていました」と國安氏。商品開発 の案件が決まっていた。
企業取引における 信用力の確保が求められたため、「株式会社 として創業することを考えていました」と國 安氏は語った。
約1年の準備期間を経て、 2018年4月、株式会社を設立した。
(3)ナ-ドワード社(業種:IT)起業当時の苦労
「最初の3カ月はほぼ売上がたたな かった」と國安氏は厳しい現実に直面した当 時を振り返った。
創業当初、事業内容は IT関連機器の商品開発」をメイン事業として、 「ウェブ制作」と「コンサルティング」と いう3つの事業の柱を考えていた。
創業初期 に受注した商品開発で、「2回目の発注が大き く減ったことがありました」と苦い記憶に國安 氏は触れた。
IT関連機器の商品開発の現状について 「開発スピードが速く、ライフサイクルが短 い」ため事業化することの難しさに國安氏は 触れた。
さらに開発に要する初期投資や原 価負担が発生して資金投入しなければなら ないという厳しい現実に直面した。
外部企業に仲介を依頼して急場を乗り 切ったものの、大型案件になるほどスピー ディーに資金を回収しないと継続できない という課題を國安氏は思い知らされたよう である。
(4)ナ-ドワード社(業種:IT)のマーケティング戦略
ウェブ制作を事業の軸へ変更
「見込みが甘かった」商品開発をメイン事業の現 実を直視して、ウェブ制作を事業の軸に変更 した。
最初に決めたことにとらわれず、柔軟 に対応したことが危機脱出につながった。
プロモーション
創業初年度の中盤から、ウェブ制作に関 して会社員時代の知人を含めた地道な営業 活動を開始した。
勤務していた頃から、創業 を意識していたことから「今後のお付き合い があるかもしれないので、仕事の取引先は 大切にしていた」と國安氏は会社員時代を振り返った。
さらに、支援機関が運営する経営者紹介 サイトへの登録を行うなど認知度向上のた めの取り組みを実施、「徐々にホームページ へのアクセスが増えました」と國安氏は語 る。
こうした取り組みが功を奏して、2年目 に入った現在では、ウェブ制作が売上の約 7割を占め、残り3割が商品開発とコンサル ティングという売上構成で推移している。
顧客開拓
顧客開拓について「種まきは1年目から取 り組んでいました」と國安氏。次年度を見据 えた地道な活動が2年目の実績作りに貢献 していることに触れた。
クライアントが活用できる補助金などの 公的支援策の情報提供を行う複合的な提案 にも着手している。
外部支援機関から環境 分析の方法や利益計画の策定についてアド バイスも得ながら効果的な顧客開拓活動に つなげている。
さらに外部のプロダクトデザイナーと連 携して商品開発や企業ブランディングのプ ロジェクトを進めている。
(5)ナ-ドワード社(業種:IT)起業成功の秘訣
柔軟な事業変更
商品開発事業の想定外の不振に際し、柔軟 にウェブ制作を事業の軸に変更 し危機脱出しました。
地道なプロモーション活動
会社員時代の知人への地道な営業、経営者紹介 サイトへの登録等で認知度を向上させ、受注を増加させています。
2.暮らしの中の「困った」「どうしよう」をリアルタイムマッチングで解決:シェアリングテクノロジー
(1)シェアリングテクノロジー(業種:IT)の会社概要[3]
会社名:シェアリングテクノロジー株式会社
住所: 愛知県名古屋中村区名駅1-1-1JPタワー名古屋19F
創業日: 2006年11月24日
起業者: 引字圭祐(引字)
2006年11月 大学在学中にシェアリングテクノロジー株式会社を創業。
代表取締役に就任
2012年4月ライフサービス領域に関する「WEB事業」を開始
2017年8月3日シェアリングテクノロジー東証マザーズに上場
2019年2月1日 同社 取締役会長に就任
2019年6月30日 取締役を辞任
2019年7月1日 同社顧問に就任
[シェアリング・エコノミーHPより][5]
事業内容: 街の専門業者を中心とした約5,800の加盟店と提携し、暮らしのお困りごと(一般家庭で生じる生活トラブル関連サービス)を対象としたWEB事業を展開。
ミッション:新たな仕組みで、安心な暮らしを、
従業員数:229名(内アルバイト・パート58名)※2022年3月末現在
売上高:35億3,167万円(2021年9月期)
税引前損失:△11億1,667万円
(2)シェアリングテクノロジー(業種:IT)起業までの経緯[4]
愛知県で生まれ育った引字氏。ビジネスの世界に飛び込んだのは19歳の頃だった。
当時まだ日本に正規代理店がなかった米国の有名アパレルブランドの洋服を輸入し、ネットオークションで販売した。
人気ブランドということもあり、買い付けたそばから商品は次々と売れていった。
「誰でも仕入れることができ、薄利であれば簡単に売れる」という仕事にやりがいを感じなくなった引字氏は、まだ日本に正規代理店がなかった海外のアロマ製品を扱った。
当時カナダでは3,000円のものが、日本では10,000円で売られていたが、それでもほしいという人がたくさんいた。
仕入れルートを見つけ出し、本を読みながらネットショップを構築し取り組んでいくと、1日に数十件の問い合わせが舞い込むようになった。気付いた頃には学生にとっては大きな売上が作れていた。
その後、全国の不動産会社に入居者向けのさまざまなサービスを仲介するビジネスが一定の成功を収め、その事業を分社化して売却。
そこでの経験も活かして現在のシェアリングエコノミー事業を開始。
全国に数多く存在する加盟店をつなぐノウハウには、共通するものがあったという。
(3)シェアリングテクノロジー(業種:IT)起業当時の苦労[4]
順調にビジネスの経験を積んできたようにみえる引字氏だが、実は現在のシェアリングテクノロジー株式会社をやっていくなかで、たくさんの失敗も経験している。
飲食店向けのアンケートを使ったマーケティングシステム、セールスレップマッチングサイト(営業代行サービスと営業をお願いしたい会社とのマッチングサイト)、モバイルでのバイト情報サービスなどに取り組んだものの、いずれも今ひとつうまくいかなかった。
(引字)「ビジネスの経験はなくても、以前にネットショップ等で売上げたお金は少しあったので、バイト情報サイトなんかは、いきなり300万円もかけて名古屋の地下鉄広告をうったりしてましたね。それだけかけても問い合わせは3件なんていうこともありました」
(4)シェアリングテクノロジー(業種:IT)のマーケティング戦略[5]
サービス
生活110番
生活110番は暮らしの中の「困った」「どうしよう」を解決するため、
暮らしに関する150以上のサービスジャンルからユーザーにとって最適な専門業者(約5,800の加盟店)を紹介しマッチングするプラットフォームサイトです。
ユーザーからのご相談には、24時間365日年中無休のコールセンターにて専任のスタッフが迅速丁寧に受付対応させていただいております。
バーティカルメディア
特定のライフサービスに関連する情報を発信しており、サイト訪問者がもつ課題を効率的に解決できるユーザーメリットの高いサイト群です。
シロアリ110番、ハチ110番、害獣駆除110番等のサービスジャンル別サイトで構成されています。
マッチングシステムMover[ムーバー]
“スケジュール管理機能“と” GPS機能“により、リアルタイムマッチングを実現するシステムMover[ムーバー]。このシステムにより、「暮らしのお困りごと」に関するWEBサイトを運営する企業から「暮らしのお困りごと」を解決するプラットフォームを構築する企業を目指します。
リアルタイムスケジュール管理機能は、加盟店の各作業員の毎日のスケジュールを把握しており、最短でお伺いできる日程をリアルタイムでご提案可能。
リアルタイムGPS機能は、加盟店の各作業員の毎日のスケジュールを把握しており、最短でお伺いできる日程をリアルタイムでご提案可能。
当社は日本全国の作業員様の現在地とスケジュールをリアルタイムに把握し、お客様からお電話をいただいた段階で、業者と訪問日程を確定。リアルタイムマッチングを実現いたします。
”Mover”により実現したプラットフォームを活用し、暮らしに関するお困りごとを最速で解決いたします。
(5)シェアリングテクノロジー(業種:IT)起業成功の秘訣
高い集客力
総合プラットフォームサイト『生活110番』では、150以上のサービスジャンルがあり、ユーザーのニーズに最適なサービス提供者を複数比較検討可能。さらにユーザーからの相談には、専任のスタッフが年中無休で対応。
顧客本位の対応力に優れ、集客力が高く多くのユーザーを獲得しています。
リアルタイムマッチングを実現
システムMover[ムーバー]のリアルタイムスケジュール管理機能、リアルタイムGPS機能は、迅速なマッチングや速い専門業者への顧客送客速度を実現。
その結果、ユーザーと専門業者双方の使用満足度をあげ、リピーターの獲得に寄与しています。
3.売り手の匿名性を維持した過剰在庫処分、オンライン激安問屋:ラクーン
(1)ラクーン(業種:IT)の会社概要[6]
会社名: 株 式 株式会社ラクーンホールディングス
住所: 東京都中央区日本橋蛎殻町 1-14-14 D
事業内容: 小売業者向け卸サイトを運営
起業者:小方 功
創業日: 1993年9月
経営理念:企業活動を効率化し便利にする
従業員:193名 うち社員187名(2022年1月末現在)
売上高4,364、最終益800(百万円)(2021年04月)
沿革
1998年8月過剰在庫品を取扱う企業間取引(BtoB)サイト「オンライン激安問屋」を開設。
2002年2月新商品及び定番品を取り扱う企業間取引(BtoB)サイト「スーパーデリバリー」を開設。
2006年4月東京証券取引所マザーズに株式を上場。
2008年9月話題の人気商品を取り扱う企業間取引(BtoB)サイト「Buyer's Navi」を開設。それに伴い「オンライン激安問屋」のサービスを終了。
2009年5月「Buyer's Navi」のサービスを「スーパーデリバリー」に統合しサイトの一本化を図る。
2016年3月東京証券取引所マザーズから東京証券取引所市場第一部に市場変更。
2022年4月東京証券取引所の市場再編により、東京証券取引所プライム市場へ移行。
(2)ラクーン(業種:IT)起業までの経緯[3]
大学在学中に、リクルート主催の米国ベンチャー企業訪問ツアーに参加し、将来の起業を決意する。
1988年、大学を卒業し、同年の4月、パシフィックコンサルタンツに入社。
1992年に退職し、起業準備と中国語を学ぶために中華人民共和国、北京に一年間留学する。
帰国後の1993年9月、東京都狛江市に自宅兼事務所で開業。
「他人と違うユニークなモノを扱い喜んでもらおう」という考えから、留学中に探した中国製の健康食品や雑貨を扱い始めた。
1997年ビジネスが軌道に乗り始めたころに、大手企業から依頼である商品を大量に輸入したが、突然の取引中止により過剰在庫を抱えることになった。
複数の取引先の支援でこの倒産の危機は乗り切ることができたが、「何故、大手企業のわがままな発注に振り回されて過剰在庫を抱える羽目に会い、倒産の危機に追い込まれなければならないのか」と憤りを感じた。
一方で、倒産の危機を脱した経験から「在庫処理が上手な社長」という評判もあがり、在庫処理の相談も持ち込まれるようになった。
これらの経験から過剰在庫をなくすためのビジネスモデルの構築をはじめる。
試行錯誤の末、1998年8月に、複数のメーカー、問屋、小売業などが参加して過剰在庫を処分できるオンラインマーケットの「オンライン激安問屋」を立ち上げた。
(3)ラクーン(業種:IT)起業当時の苦労[3]
オンラインマーケット事業を始めるにあたり、2000年4月に、当時シンガポール・テレコムの会長で投資家のコ―・ブーン・フィーから4000万円、日本アジア投資や個人投資家などからも8000万円、合計1億2000万円を資金調達した。
(4)ラクーン(業種:IT)のマーケティング戦略[7]
サービス内容
取り扱い商品
「小売による未引き取り品」や「シリーズ変更による型落ち品」、「季節終了による過剰在庫」が取り扱い商品。
売り手側の匿名性を確保するために、中古品や倒産品などは扱っていない。
取扱商品はアパレルが40%、雑貨が45%、家電が15%で構成されている。
取引形態
小売店が注文することで同社が売り手に発注をかける「受発注型仕入」と、同社があらかじめ自社倉庫に預かる「消化型仕入」の2方式をとっている。
サイトでは、大企業のブランドイメージを損ねないために、売り手側の掲載が商品情報のみで企業名が公表されない。
匿名性を徹底するために、商品の検品を同社が自社内で行い、自社品として販売している。
買い手側のメリットとしては、品質のよい商品を小ロットで安く取り引きできることだ。
とくに、地方や小規模の小売店の場合は、インターネットを介することで、仕入れにかかる時間とコストが削減できる。
さらに仕入先を一本化でき、荷受けや決済業務を簡素化できる。
料金
サイト使用料は、会員になるための登録料やサイトへの商品情報の掲載料が無料。
手数料は完全成功報酬型で、取り引きが成立した場合に、売り手が販売額の20-50%を支払う。
売り手会員、買い手会員の獲得
2002年1月下旬の時点で、約550社の売り手会員、約1万3500店舗の買い手会員を獲得した。
(5)ラクーン(業種:IT)起業成功の秘訣
売り手側は在庫リスクがなく匿名性を維持
ラクーンが一度在庫を引き取り、自社品として販売するすることで、売り手側は在庫リスクがなく匿名性を維持可能。
在庫処分に困る売り手業者の支持を得、多くの売り手会員を獲得しました。
買い手側の利便性の向上
買い手側は、品質のよい商品を小ロットで安く取り引きでき、しかもWebで利用しやすい。
買い手側の利便性が向上し、業界の流通の円滑化に貢献しています。
出展
[1]:2019年度創業事例集(東京商工会議所)
[2]:ナ-ドワードHP
[3]:Wikipedia
[4]:【シェアリング・エコノミー】「ライフサービスにイノベーションを」シェアリングテクノロジー 引字圭祐氏
[5]:シェアリングテクノロジーHP
[6]:ラクーンHP
[7]:<進化するECビジネス>ラクーン 売り手と買い手を結び在庫を売れ筋商品に 正規品のECサイト