ものづくり補助金を使った自動車整備業の技術革新(ASV対応)

低下しつつある国内製造業の競争力を高めるため、ものづくりやサービスの技術革新が求められています。

この記事では、自動車整備業の技術革新について、ASV対応の視点から
・自動車整備業の外部環境
・自動車整備業のユーザーニーズ
・ASV対応技術革新
についてご紹介します。

技術革新をするにはどうすればよいか考えている事業主の方の、参考になれば幸いです。

Ⅰ.自動車整備業のASVに関する外部環境

外部環境(ASV対応)
外部環境(ASV対応)

1.国の政策

(1)国土交通省のASV推進

国土交通省が推進する ASV(先進安全自動運転)は平成 3 年度 から 15 年以上にわたって開発・実用化・普及へと進展し各種 自動車メーカーから衝突軽減ブレーキ等を搭載した車両が販 売され市場に定着化しつつあります。
この ASV 技術は第 6 期(2016 年〜2020 年)へ移行をし、「クルマの高度化による 更なる交通事故の削減を目指して」の更なる進化を遂げる為 の研究開発が継続的に行われています。

(2)特定整備制度

自動車整備においては、電気自動車や電子運転制御機能搭載車の普及拡大を受け、令和 2年4 月より「特定 整備制度」が施行されました。
この法律改正により自動ブレーキ等の運行補助装置の整備に「電子制御装置整備」の認証が必要となりました。
「電子制御装置整備」の認証には、工場の環境整備や整備用スキャンツールの導入が義務付けられています。

現在、販売されている多くの車には自動ブレーキ や車線逸脱防止機能が備わっています。
そのような車種は自動ブレーキのためのカメラや レーダーなどのセンシング装置が備わっていま す。
これらの装置の整備や改造は、国土交通省によって、令和 6 年 4 月から地方運輸局の特定整備認証を受けていない 場合整備サービスを提供できなくなります。 

(3)OBD 車検(車載式故障診断機器装置)

衝突被害軽減ブレーキ等の自動運転技術については、交通事故の防止に大きな効果が期待される一方、故障時には誤作動等により事故につながるおそれがあることから、使用時においても、確実に機能維持を図ることが重要です。

このため、令和6年10月から、自動車の検査(車検)において、衝突被害軽減ブレーキ等の自動運転技術等に用いられる電子制御装置の目に見えない故障に対応するための電子的な検査・OBD 車検*1を、開始することとしております。

OBDでは、運転支援装置や排気ガス装置で検出した異常データを、自動車検査時に法定スキャンツール(外部故障診断機)で読み取るだけで、修理の必要性や安全性を確認できます。

OBD車検の対象となる装置は次の通りです。

・運転支援装置(アンチロックブレーキシステム、横滑り防止装置、ブレーキアシスト、自動ブレーキ、車両接近通報)
・自動運転機能(自動車線維持、自動駐車、自動車線変更など)
・排ガス関係装置

*1:OBD車検とは、「On Board Diagnostics(車載式故障診断装置)」を使った自動車検査のことをいいます。

(4)ものづくり・商業・サービス革新補助金制度

国際競争力向上や新産業創出を促すため、中小企業の技術革新や新サービス開発を支援する補助金。正式名称は「ものづくり・商業・サービス革新補助金」。

「中小ものづくり高度化法」(平成18年法律第33号)などに基づき、経済産業省と中小企業庁が2009年度(平成21)補正予算編成時に創出した補助制度である。

試作品や新商品の開発、新サービスの導入、設備投資などを行う中小企業を対象に、かかった原材料費、機械装置費、人件費などの費用の3分の2までを補助する。
補助上限は1000万円。ものづくり補助金は工作機械などの設備投資を促す効果が大きく、景気対策の一環として毎年、補正予算編成時に予算規模や補助内容が決められている。*2

*2:12次募集では、補助上限額750万円~3,000万円、補助率1/2もしくは2/3[1]

2.自動車業界ASVの動向

(1)ASV(先進安全自動車)

現在の自動車市場は ASV(先進安全自動車)の普及を受けて、 「100 年に一度の大変革期」と呼ばれています。

ASV(先進安全自動 運転)の技術は
衝突被害軽減ブレーキ
ペダル踏み間違い時加速抑制装置(誤発進抑制制御装置)
車間距離制御装置(ACC)
車線逸脱警報装置
リアビークルモニタリングシステム
自動切替型前照灯
等があります。

(2)衝突被害軽減ブレーキ「AEBS」

「AEBS」は「Advanced Emergency Braking System」の頭文字を取った略語で、自動車に搭載されたカメラやセンサーなどを使って進行方向に存在する人や自動車、障害物を察知し、自動的にブレーキを作動させ衝突を回避する仕組みです。

日本では2012年頃から自動ブレーキが普及しはじめ、2020年の衝突被害軽減ブレーキ装着率は、同年の総生産台数の約91.5%にのぼりました。

2021年11月から「国産車の新型車」で衝突被害軽減ブレーキ搭載が義務化されています。

(3)ホンダレベル3の自動運転車をリリース

ホンダは2020年11月、自動運転レベル3 *3システムの型式指定を国土交通省から取得し、2021年3月に渋滞時に自動運転を可能にするトラフィックジャムパイロットを実現した「Honda SENSING Elite」と、それを搭載する新型LEGEND(レジェンド)を発表した。
レジェンドは100台限定のリース形式で販売された。

この Honda SENSING Elite が提供するレベル3の機能は、いわゆる「自動運転」としては初歩的で、制御を完全にクルマ側に任せられるのは自動車専用道路限定、速度も30㎞/h以下で起動〜50㎞/h以上で解除という領域のみ。
このレジェンド Honda SENSING Eliteは、国土交通省がレベル3型式指定を与えた正規モデルとしてリリースされ、一般ユーザーにデリバリーされる。

*3:SAE(米国自動車技術会)は自動運転を自動化の程度のレベルを下記の5段階に分けています。日本においてもこの分類を採用しています。
 レベル0:運転自動化無し
 レベル1:運転支援
 レベル2:部分運転自動化
 レベル3:条件付き運転自動化
 レベル4:高度運転自動化
 レベル5:完全運転自動化
レベル0〜2までは、基本的に運転タスクはドライバーが行いますが、レベル3以上は運転タスクを自動運転システム、すなわち自動車自体が判断するようになります。

Ⅱ.自動車整備業のASV対応技術革新[7]

ASV対応技術革新
ASV対応技術革新

1.ASV対応の整備工程

従来の「1.板金塗装」に加え、
「2.ボディアライメント調整」にて車体の 歪み・フレームの診断と修正を行う。
「3.ホイールアライメント調整」にて4本のタイヤの歪み の診断と修正を行う。
「4.エーミング」にて、搭載された電子機器類を含めて自動車が正しく整 備されたことを診断・証明する。

2.アライメント調 整

(1)ホイールアライメントの構成要素

ホイールアライメントの構成要素には、スラスト角、キャンバー角、キャスター角、トー角、 キングピン角(SAI)、ターニングラジアス、セットバック、スラストアングルなどの諸角度があ り、自動車ごとにそれぞれ固有の値が決められています。

ホイールは車に、わずかずつではあるが色々な方向で角度が付けられています。
この微妙な 角度が、一つでも狂うとバランスが悪くなり、タイヤの異常摩耗、直進安定性が悪くなる、ボ ディが斜めになって走る、ふらつきやハンドルが重くなる、等の症状が現れ様々な走行上の トラブルの原因となります。

よって、修理前、修理後の正確なアライメントの測定が課題です。

(2)ボディアライメント・ホイールアライメントのASVに おいての重要性

ASVには、前方監視カメラ、レーザーレーダー、センサー等が装着されており、スラスト角 (中心線)等のホイールアライメントがズレている場合、レーザーレーダーやカメラなどの検 知デバイスが正常に作動しない可能性があります。

それら機器の取り付け角度・位置調整・較 正(エーミング調整)は車体の中心線を基準に調整するため、事前にアライメントテスターで 測定後、幾何学的中心線を基準値に修理する必要があります。

よって、このエーミング調整に おいても修理前、修理後の正確なホイールアライメントの測定が課題です。

(3)アライメント調整装置

①アライメントテスター

アライメントテスターとは、ホイールアライメント を計測する装置。
車輪は車体に、“色々な 角度を持たせて”取り付けられているが、その 色々な角度のことをホイールアライメントといいます。

ジョンビーン 4輪アライメントテスター V2300-TM[2]

価格: 720万円

3.エーミング

(1)エーミングとは

現在の ASV(先進安全自動運転)の多くは、「ミリ波レーダ」と「赤外線レーザー」およびバンパーに装着され ている「超音波センサー」と「カメラ」が複合的に組み合わさり作動をします。

ASV に搭載される「自動運行装置、自動ブレーキ、レーンキープ、ペダル踏み間違 い時加速制御」などの電子制御装置(ミリ波レーダー、超音波センサー、赤外線セン サーなど)が、事故修理や整備などの後も正常に作動するようにセンサーの調整・校 正をする作業のこと。

フレーム修正を伴う車体修正や鈑金塗装の後はもとより、フロ ントガラスを交換した後、バンパーを脱着しただけでもエーミング作業が必要となります。

(2)ASV装置[3]

①車載カメラ

車載カメラは、ドライブレコーダーやバックモニタなど、運転時の記録を保存したり、ドライバーの死角を補助するビューカメラなどとして普及してきました。
近年は画像認識技術が発達し、取得した画像から道路標識や歩行者などを検知し、ドライバーに警告を発し、自動車の動作を制御するためのセンシングカメラとしての役割を果たすようなりました。

ADASで利用される車載カメラには、以下の用途があります。
・周囲の視界補助システムとしての機能:アラウンド・ビュー・モニタ、ドライバが車の死角を映像で確認できる、車線変更時における後側方障害物警報など
・後方画像による駐車支援
・単眼カメラで道路のレーンマーカを検知
・ステレオカメラで前方の障害物や先行者を検知
・速度表示などの道路標識の認識
・歩行者検知・衝突警報

②レーザレーダ(LiDAR,ライダー)(バンパーに設置)

レーザーレーダとは光を用いたリモートセンシング技術の1つで、パルス状に発光するレーザ照射に対する錯乱光を測定し、遠距離にある対象までの距離や、その対象の性質を分析するものです。
LiDARが主な用途は、前方障害物までの距離の測定、縁石などによる道路形状の認識、反射率を利用した白線認識などがあります。

③ミリ波レーダー(フロントパネルに設置)

車両周辺の静止物体および移動物体までの相対距離を計測するためのセンサーとして、レーザーレーダの他にミリ波レーダがあります。
ミリ波を用いたセンサはレーザーを用いたセンサーに比べ検知距離が長く、雨天性能/霧・雪での性能(全天候性)、相対速度の直接計測が可能であり、先行車両などの運動予測性能に優れているという特徴があります。

(3)エーミング作業の工程

①フロントセンター出し

フロントのエンブレムを基準にフロント部のセンターを出します

②リヤのセンター出し

リヤのエンブレムを基準にリヤ部のセンターを出します

③車両センター決め

前後のセンターをラインで繋ぎ、車両センターを決めます

④センターラインで既定の位置測定

センターライン上において、メーカー修理書に記載されている既定の位置を測定します。この規定の位置にターゲットを合わせる必要があります。

⑤ターゲット設置

前後位置はもちろんのこと、ターゲットの間隔や高さ、サイズまで全て既定があります。

⑥スキャンツール

スキャンツールはある部分に差し込む事でその車の情報が全てこのスキャンツールで読み込むことが可能です。
ASV(先進 安全技術自動車)に搭載されているレーダーやカメラ などのセンサーの調整(校正作業)をします。
専用装置を使い、車両の正面に配置し たキャリブレーションフレームと左右リヤホイール に取付けたホイールクランプそれぞれを、レーザー光 によって視覚的に位置関係を把握しながら校正していきます。

➆作業終了

(5)エーミングの装置

①エーミング装置

「AUTEL エーミングキット」[4]

 オーテル:MaxiSys ADASエーミングキャリブレーショ ンツール
ミリ波レーダーやカメラの向きの調整を精度高く行う ことができます。

価格: 530万円

②タイヤ調整対応リフト

【Bishamon】ビシャモン スギヤス  マルチリフトシリーズ マルチアライメント MUS30HUL[5]

タイヤの向きの調整を行うことで、ミリ波レーダーやカメラの向きの調整を短時間で行うことができ、エーミング作業全体 のリードタイムを短くします。

381万円(税込

4.OBD

Launch CRP123X obd2 診断機[6]

BWM ベンツ 日本車対応 日本語 自動車 故障診断機

LAUNCH CRP123Xスキャンツールは、自動車のエンジン/トランスミッション/ ABS / エアバッグ(SRS)の4システムを全面的に診断し、故障コードの読み取りにより故障原因を迅速に特定し、トラブル解消後、故障コードを消去、点灯した故障警告灯をオフにすることができます。

価格:LAUNCH CRP123X ELITE 2万円

5.ものづくり補助金を使った自動車整備業のASV対応技術革新のすすめ

(1)ASV対応の装置は高価

アライメントテスター:770 万円
エーミング装置:530万円
タイヤ調整対応リフト:381万円

ASV対応の装置は高価なので、自費で導入すると財務的に負担が大きいです。

(2)ものづくり補助金で採択される可能性

ものづくり補助金申請の重要な審査項目である革新性を出しやすいです。

革新性の要素である、業界で使用例がまだ少なく、近隣地域で初めての可能性大だからです。
また、新しい装置なので技術的な課題が多く、工夫し解決すれば強く革新性を出せます。

(3)ものづくり補助金は、持続的成長のために有効

補助金は補助上限額750万円~3,000万円、補助率1/2もしくは2/3で、獲得できれば財務的負担を大幅に軽減できます。

また装置導入できれば、差別化でき競争力をつけられます。
100年に一度の大変革期で業界2極化が起こると言われています。
ものづくり補助金を活用した技術革新により、生き残りが図れ持続的成長の基礎を固められます。

まとめ

国際競争力はもとより、社会情勢の変化や今後の競争を生き抜くためには、自動車整備業では事業現場の技術革新がより重要になっています。
そのためには、国の補助金制度の活用も有効です。

当社では、ものづくり補助金を利用した各種ソリューションをご提案可能です。
ぜひ一度ご相談ください。

出展:
[1]:令和元年度補正・令和3年度補正 ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(12次締切分)
[2]:FINE PIECE デリバリーHP
[3]:ADAS(先進運転支援システム)におけるセンサーの種類と役割について
[4]:AUTEL社HP
[5]:【Bishamon】ビシャモン スギヤス  マルチリフトシリーズ マルチアライメント MUS30HUL
[6]:4システム診断+全機能 obd2スキャナー
[7]:【ものづくり補助金】を使った自動車整備業の技術革新事例