【ものづくり補助金】を使った自動車整備業の技術革新事例

ものづくり補助金とは、中小企業等のものづくりを支援することを主な目的として設けられている補助金です。
補助金の上限額が大きいため、自社に活用できないかと感じている事業主は、きっと少なくありません。

この記事では、ものづくり補助金成果事例検索(平成24年度補正事業~令和元年度事業)からの事例を紹介します。
技術革新をするにはどうすればよいか、考えている事業主の皆さんの参考になれば幸いです。

Ⅰ.ものづくり補助金とは

ものづくり補助金制度
ものづくり補助金制度

1.ものづくり・商業・サービス革新補助金制度

国際競争力向上や新産業創出を促すため、中小企業の技術革新や新サービス開発を支援する補助金。正式名称は「ものづくり・商業・サービス革新補助金」。

「中小ものづくり高度化法」(平成18年法律第33号)などに基づき、経済産業省と中小企業庁が2009年度(平成21)補正予算編成時に創出した補助制度である。

試作品や新商品の開発、新サービスの導入、設備投資などを行う中小企業を対象に、かかった原材料費、機械装置費、人件費などの費用の3分の2までを補助する。
補助上限は1000万円。ものづくり補助金は工作機械などの設備投資を促す効果が大きく、景気対策の一環として毎年、補正予算編成時に予算規模や補助内容が決められている。*1

*1:12次募集では、補助上限額750万円~3,000万円、補助率1/2もしくは2/3[1]

Ⅱ.自動車整備業の外部環境

自動車整備業の外部環境
自動車整備業の外部環境

1.国の施策

(1)特定整備制度

自動車整備においては、電気自動車や電子運転制御機能搭載車の普及拡大を受け、令和 2 年 4 月より「特定整備制度」が施行されました。
この法律改正により自動ブレーキ等の運行補助装置の整備に「電子制御装置整備」の認証が必要となりました。

特定整備制度とは、これまでの分解整備の範囲を拡大し、新たな作業を追加する制度です。
「電子制御装置整備」として衝突被害軽減ブレーキなど先進安全技術のエーミング(較正作業、機能調整) に加え、センサーが装着されたフロントバンパーなどの脱着、ガラス交換も対象となっており、これらの整備に「電子制御装置整備」の認証が必要となりました。

(2)VOC(揮発性有機化合物:Volatile Organic Compound) 排出規制

大気汚染防止法の改正により、平成16年からVOC(揮発性有機化合物:Volatile Organic Compound) 排出規制が導入されました。

また労働安全衛生法の改正により、平成25年からVOCによる作業者の健康被害を考慮した排出規制が導入されており、VOC排出が少ない水性塗料への切り替え等の対応 が今後重要になってきています。

ただし、水性塗料は塗料が乾燥するまでの温度管理や粉塵対策が重要であり、塗装ブース等の導入など大規模な設備投資が必要です。

2.自動車業界の動向

(1)ASV(先進安全自動車)

① ASV(Advanced Safety Vehicle:先進安全自動車)の検査・車検の需要

現在の自動車業界は ASV(先進安全自動車)の普及を受けて、 「100 年に一度の大変革期」と呼ばれています。

ASV(先進安全自動車) には「自動運行装 置」、衝突被害軽減ブレーキ、ふらつき注意喚起装置、車線逸脱警 報装置、車両横滑り時制動力・駆動力制御装置、ACC(定速走行・車 間距離制御装置)、ペダル踏み間違い時加速制御装置といった機能 などが含まれます。

ホンダが 2021年3月に世界初のレベル3*2の自動運転車をリリースするなど、その性能も日夜向上しています。

*2:SAE(米国自動車技術会)は自動運転を自動化の程度のレベルを下記の5段階に分けています。日本においてもこの分類を採用しています。
 レベル0:運転自動化無し
 レベル1:運転支援
 レベル2:部分運転自動化
 レベル3:条件付き運転自動化
 レベル4:高度運転自動化
 レベル5:完全運転自動化
レベル0〜2までは、基本的に運転タスクはドライバーが行いますが、レベル3以上は運転タスクを自動運転システム、すなわち自動車自体が判断するようになります。

②「衝突被害軽減ブレーキの義務化」

2021年11月以降に国内で発売される新型車には衝突被害軽減ブレーキ(AEBS)の搭載が必須となりました。

国土交通省の調査(令和2年「ASV技術普及状況調査」)では、2020年の衝突被害軽減ブレーキ装着率は、同年の総生産台数の約91.5%にのぼり、すでにほとんどの新車では搭載が進んでいます。

(2)水性塗料

①水性塗料の自動車整備業界での必要性

今までは、自動車塗装に用いられる塗料は油性塗料が主流で したが、油性塗料には VOCと呼ばれる大気汚染を引き起こす物質が含まれています。

VOC 排出は国際的に規制が行われており、欧米ではかなり前 から水性塗料の導入が義務付けられています。
そして、日本に おいても、現在の自動車製造業界では VOC 排出の少ない水 性塗料が普及してきています。

②低VOC塗料の現状と今後

自動車・車両分野では、平成19年度で水性塗料が約70%使用されています。[2]

現在外国車はもちろん、国産車においても水性塗 装のニーズが急拡大しています。
日本最大手の自動車メーカーであるトヨタは、既に、将来全ての塗料を水性塗料に 変更すると発表しており、これからの鈑金塗装業は水性塗料対応を余儀なくされるとみられます。

Ⅲ. 自動車整備業の技術革新事例[3]

技術革新事例
技術革新事例

1.エーミング作業及び分解整備による新たな受注体制の確立[4]

新井電機株式会社
自動車整備業
新潟県上越市石橋2-1-71 025-543-3478

エーミング設備導入と分解整備認証取得により、 義務化が始まる自動ブレーキの検査が可能に

車の電装化と共に、 上越地域での地位を確立

1949年、車のバッテリー製造販売業と して創業。
バッテリーの交換やリサイクル を中心に事業運営をしていたが、それだ けでは経営が成り立たなくなってきたこと から、他の電装品の販売修理業にも参入。

カーエアコンやラジオ、オーディオ、ETCや ナビゲーションの販売修理も行うように なった。
扱う電装品が増えると流通の多い 仙台ー大阪間のトラックの電装品修理も 対 応 するようになり、口コミで 評 判 が 広 がっていった。

新井電機はこのように年々 進化する車の電装品に対応することで、地 域の整備工場やディーラー、個人客から電 装品整備の仕事を引き受けてきた。

自動ブレーキ義務化に向け、 必要装備をいち早く導入したい

現在、自動車業界は大きな変革を迎えて いる。2 0 2 1 年 からは 新 型 車 へ の自動ブ レーキ搭載の義務化が始まり、電装品に よって自動車の制御がますます進んでい く。
その中で、電装品を販売修理する会社 にも電装品の動作チェックなど新たな対 応が求められている。
自動ブレーキ搭載車 にはカメラやセンサーが搭載されるため、車検時には対象物との距離を測る専用 ボードやレーザーなどの設備が必要とな る。

しかし、設備は高額でまだ距離の測定 とズレを自動で行える「エーミング作業」 に手を出している県内企業はなかった。
そこで、「他企業の見本になれば」と先陣 を切って導入を決めたのが新潟県自動車 電装品整備商工組合の理事長でもある新 井氏。近い将来必要になるエーミング作 業 を 先 駆 けて導 入しようと実 施 に 踏 み 切った。

エーミング作業のため、 設備導入と認証取得を進める

「エーミング作業」。これを実現するため、 ものづくり補助金を活用し、エーミング作 業で使う距離を測るエーミングツール、分 解整備の認証を得るために必要な排ガス 測定器やフロンガス回収再生充填装置を 含む、計8項目の機械を導入。

合わせて、自 動車修理には自動車本体の解体も伴うた め、分解整備の認証も取得した。
これまで は整備工場で分解整備をした後に、電装 品工場で電装品整備、ディーラーでエーミ ングと工数も多く、金額も上がってしまって いたが、各種ツール導入後は各社に移送 する輸送時間が削減、整備工場やエンド ユーザーに対する販売価格も10,000円ほ ど下げられるようになった。

2.有機溶剤塗装から水性塗料塗装への切替による自動車修理塗装での新たなサービス提供方式の実現[5]

有限会社大和自動車
自動車整備業
代表取締役 土方 奨
〒509-0245 岐阜県可児市下切3278
設立/平成3年8月1日
資本金/300万円
従業員数/10人

他社に先駆けて水性塗料による塗装技術を確立し、 ニーズに対応する新たな塗装サービスを展開

本事業への取り組みの経緯

現在業界では、国内自動車メーカー及び輸入車 のほとんどに水性塗料が使われている一方で、修 理塗装には有機溶剤塗装が主流だった。
自動車整 備業界におけるVOC規制がないこと、乾燥に時 間がかかる、ゴミが付着しやすい等、水性塗料に は仕様デメリットがあることもあり、これまで当 社でも他社と同様、有機溶剤塗装を使用していた。
 具体的には、水性塗料塗装は新車ボディのみを塗 料プールに漬け込む、大掛かりな電着塗装が行わ れていたが、修理ではパーツごとに塗装を行うた めこの方法は難しく、これまでの技術では、水性 塗料のデメリットを克服するのは困難だった。

しかし、当社のユーザーからは、新車塗装と同 じく、環境に配慮した水性塗料での修理塗装を望 む声があり、当社としても従業員の作業環境や工 場周辺の環境改善も考慮し、他社に先駆けて水性 塗料への切り替えを決断。
塗装サービス提供プロ セスの改善と生産性の向上を図ることとした。

事業概要

水性塗料の仕様デメリットに対する技術的課題 点を補うため、水性塗料専用の塗装・乾燥設備を 新たに導入。
塗料メーカーや塗装・乾燥設備メー カーの協力を仰ぎ、水性塗料の技術講習を受け、 作業技術の習得を図った。
その上で、従来の有機溶剤塗装の作業実施工程と比較し、乾燥時間の大 幅な短縮化を目指した。

事業成果

新たに導入した塗装・乾燥設備は、ランプ熱に よる電気方式で、1分で80度と温度の立ち上がり 速度が早く、温度・風量をコントロールできる温 風乾燥により、高効率乾燥が可能となった。
また、水性塗料による塗装技術を確立したことで、既存 設備による塗装作業の場合、160分を要していた 作業を53分まで短縮。
水性塗料でもタレ、ワキ、 ちぢみ、ゴミの付着等がない状態での仕上げを安 定的に作り出せるレベルの技術を確立した。
これ により、付加価値の高い塗装サービスを提供でき る仕組みを構築できた。

事業の活用状況(補助事業実施後の取り組み)

水性塗装を施すサービスは、板金塗装業界では 画期的な取り組みといえる。
実際、当社の導入は 全国でも10本の指に入るスピードで、東海地区 でも他に先駆けた取り組みとなっている。

塗装乾 燥時間の短縮により、修理受付から最短1日で納 車を可能とする短納期化を実現するだけでなく、 車体自体の劣化防止、臭いが発生しない等、水性 塗料のメリットを活かして、高級外車を所有する 顧客や臭いを気にする女性顧客向けにも、高品質 塗料サービスに発展させる等、他社の追随を許さ ない競争力を身につけることができると考えてい る。

実際、導入を機に従来の顧客はもちろん、新規 取引先からの仕事も増加。また業界全体で人材不 足が叫ばれる中、将来性を感じて採用に関する問 合せも増えており、導入をきっかけに若手スタッ フ1名を採用した。今後は規模拡大を図りながら、 地域での雇用創出などにも貢献していきたいと考 えている。

3.コンピューター調色システム導入による新サービス(ブライトネスサービス)の展開[5]

1969年創業。
代表取締役 持丸 將夫
持丸自動車株式会社
〒319-0209 笠間市泉2387-3
従業員数: 7名

取り組みの経緯

笠間市内における自動車整備業の競合店は、60 店舗以上が存在し競争が激化している。
さらに、周 辺では少子高齢化が進み青年層の顧客が少なく、 年々減り続ける顧客を奪い合うという図式になって いた。

また、法人顧客は社名入りの営業車やトラックで 常に稼働しなくてはならないものが多く代車では稼 働しにくく、「一刻も早く修理・塗装して、すぐに 使えるようにしてほしい」というニーズが多々ある。
 一般顧客からも自分の慣れた車で運転したいという 思いから「きれいに早く修理をしてほしい」という 声が多い。

しかし、板金塗装において調色に関する所要時間 は、簡単な調色で約30分、パール色など特殊なも のでは2時間以上かかる。
さらに複雑な調色になる と、さまざまな角度から色を見ていかなければなら ず、スタッフ3人掛かりで半日もの時間がかかる。
また、光の当たり具合によっても色が変わってくる ため、日光が当たる日しか作業が進まないのが現状 である。

そのため、部分的な傷の場合で、受付から板金・塗装・乾燥・引渡しまで3日〜1週間かかり、 顧客ニーズに対応できていないのが課題だった。

そこで、他社にはない「コンピューター調色シス テム」を導入することで、新サービス(ブライトネ スサービス)を展開し、塗装技術の向上及び他社と の差別化を図ることにした。

事業の具体的内容及び効果

従来の調色作業は、見本帳を見ながらボディカ ラーの色合わせを行う。職人が数種類の原色塗料を 配合し、微妙な色調整を行いながらボディカラーと 同じ色を作り出す。
このような、昔ながらのアナロ グ作業のため、時間がかかりすぎることが一番のデ メリットだった。

今回導入した「コンピューター調色システム」は、 専用カメラとコンピューターによりボディカラーを 分析し、色の配合を瞬時に読み取ることができる。
コンピューターで計算して弾き出された色に対して 塗料を調合するため、作業時間を大幅に短縮すると ともに、より正確に調色をすることが可能になった。
しかも、天候に左右されることなくボディカラー を、正確かつスピーディーに調色することができる。 同じ車種でも保管場所によって色味がばらついてし まうが、その細微な色の違いまで正確に調合するこ とができる優れものだ。

システム導入後は、パール色など特殊な調色は2 時間以上かかっていたものが、15分ほどに作業時 間が短縮し、納期のスピードアップにつながった。
また、1人で調色が行えるようになり、他のスタッ フの作業を止めることがなくなったため、現場全体 の作業効率が格段に上がった。

まとめ

自動車業界は100年に一度の変革期と言われています。
この時期をチャンスと捉えるなら、事業者も技術革新が必要です。

ものづくり補助金は補助金額が大きく、獲得ができれば技術革新にとって大きな後押しとなります。

自社での申請が難しい場合には、ぜひ専門家とともに申請にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
当社では、ものづくり補助金を活用した技術革新をご提案可能です。

ぜひ一度ご相談ください。

出展:
[1]:令和元年度補正・令和3年度補正 ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(12次締切分)
[2]:工業塗料分野における 低VOC塗料の現状と今後
[3]:ものづくり補助金総合サイト・成果事例のご紹介
[4]:ものづくり補助金を使った自動車整備業の技術革新(ASV対応)
[5]:ものづくり補助金を使った自動車整備業の技術革新(新技術対応)