【詳説】ものづくり補助金を使った農業の技術革新事例

農業者のみなさん、「ものづくり補助は製造業やサービス業のみの補助金と思っていませんか。
農産物の生産や加工でも、技術革新性があれば農業者も採択されています。

農業の技術革新により、労働生産性の向上や高付加価値化を実現した「ものづくり補助金」採択事例を紹介します。
農業の技術革新事例を参考にして、「ものづくり補助金」獲得[2]を検討してみてはいかがでしょうか。

Ⅰ.農業の技術革新による労働生産性向上[1]

労働生産性向上
労働生産性向上

ドローンによる効率化や、IoTでの、農業の技術革新による自動化事例を紹介します。

1.ドローンの活用

(1)生産性・防災対策・環境保全に貢献するドローンを活用した造園技術の開発と提供

事業者:有限会社ウエサイ

事業課題

今後の安定した収益の確保と更なる成長を図るためには、生産性向上と共に新たな需要の掘り起こしが急務となっていた。
これらを改善するために、これまでの造園工事フローを見直した結果、前処理工程の「現地調査測量」 や、後処理工程の「剪定枝葉回収」等に労働力がかかりすぎるという問題点があることがわかった。

事業課題の解決策

前処理工程の 問題点を解決するためにドローンを導入し、後処理工程の問題を解決するためにバックホー及び樹木粉砕機の導 入をすることで生産性の向上を図ることにした。

ドローン 空撮機体
ドローン 空撮機体    

DJI 社  空撮を行うための機体。
ドローン測量ソフト一式 Terra Mapper Desktop 版
データの三次元化から詳細な解析までを、一貫して行える測量向けのソフトウェア

ドローン 空撮セット
ドローン 空撮セット          

前処理工程である測量については、ドローンの導入により、通常の光波測量で3日間(1日8時間として24時間) 掛かる測量作業が、約4時間に短縮できた。
また、設計工程においても、測量ソフトによる高精度な2D/3D解析に よるデータ解析・図面化を行うことが可能となり、より精緻な設計図面が短時間で作成できるようになった。

バックホー ヤンマー 
バックホー ヤンマー           
樹木粉砕機
樹木粉砕機      

樹木の幹や竹だけでなく、枝や葉も細かく粉砕

補助事業の成果
剪定後の片付け
剪定後の片付け   

後処 理工程では、導入したバックホーを使うことで剪定後の片付け等、これまでの半分の人員で作業が行えるように なった。

剪定枝葉や伐採樹木のチップ化
剪定枝葉や伐採樹木のチップ化  

また、樹木粉砕機により剪定枝葉や伐採樹木をその場でチップ化、肥料として再利用することで、処分場 までの運搬費や焼却費が不要となり、後工程でも生産性の向上が図れた。

会社概要
有限会社ウエサイ
現在の事業エリアは地元の周防大島・柳井から岩国・光地域に及んでいる。
造園業を中心とした個人邸の管理はもちろん、町・県の公園等の維持管理業務、作庭の他、当社ならではのヤシの生育・販売も行っている。
創業平成12年4月25日
〒742-2516 山口県大島郡周防大島町和田1412-1
従業員数 6人

2.IoT

(1)水田の水管理をスマホで遠隔操作コメ作りを効率化、農家の負担軽減

事業者:株式会社笑農和

事業課題

富山県の調べによると、稲作の工 程において県内の水田10アール当た りの作業時間は水管理が12時間と、 最も多くの時間を費やしている。
作 業期間も4~5カ月と最も長い。

一 般的に農家は、用水路から水田に水 を引き込む堰に立てた板などを抜き 差しして、水田の水位と水温をコン トロールしている。
複雑な作業では ないが、稲の生育に影響する作業で あり、管理する水田が多ければ多い ほど負担も大きい。

事業課題の解決策

この水管理をIT によって省力化すれば、稲作全体の 作業負担も軽減できると考えた。

水管理遠隔操作システ ム
水管理遠隔操作システ ム   

paditchは、板の代わりに自社開発 のIoT水門「paditch gate 01」を水 田の取水口に設置し、インターネッ トを使って、田植え後の水管理をス マートフォンで遠隔操作するシステ ムである。
水門のセンサーが感知し た水位や水温を見ながら、水門を自 動開閉できる。タイマーや、逆流や モグラの被害などで水が抜けた時に アラートで通知される機能も備える。

IoT水門
IoT水門
補助事業の成果

富山、愛知、広島県内の約10カ所 で実証実験を行ったところ、手元のスマートフォンで水位を確認しなが ら、水田の見回りのタイミングや順 序を決められるようになり、水管理 作業が効率化した。深夜に水を入れ て朝方に止めるといった作業もタイ マーで行える。
試用した農家からは 「水の排出スピードにより施肥の漏 れが分かり、追肥量を算出する手助 けになる」「豪雨などで水位が一気 に上昇したときに、一括で入水を止 められる」と高評価だった。

 作業の効率化だけでなく、こまめ な入水管理により、食味に影響を与 える高温障害を防ぐことができれ ば、コメの品質向上にもつながる。
また、水管理は経験則に頼る部分が 大きいが、データから圃場ごとの癖 を把握して水位設定できることか ら、ベテラン農家でなくても水管理 がしやすくなる。

会社概要
株式会社笑農和
取扱製品農業に関するIT活用コンサルティング。
商品企画・マーケティングに関するコンサルティングサービス、米、玄米の販売(加工品を 含む)およびインターネット販売ならびに輸出入、農業生産管理・農産物流通システム の開発・販売。
創業・設立平成25年2月14日
代表下村 豪徳
所在地富山県滑川市上小泉2187番地
従業員数6人

Ⅱ.農業の技術革新による高付加価値化[1]

高付加価値化
高付加価値化

トマト栽 培精密農業、有機米6次産業化での、農業の技術革新による高付加価値化事例を紹介します。

1.精密農業

(1)夏越し通年栽培による地域密着型高収益トマトビジネスモデルの確立

事業者:株式会社みつヴィレッジ

事業課題

みつヴィレッジは㈱網干造船所の農業参入事業としてス タートし、現在では農業法人として独立している。
トマト栽 培で事業を開始したが、莫大な経営面積で実施することは 経営リスクが高い。
そこでいかに小さな面積で高収益をあ げるかが重要な課題となる。特にトマトは、最新技術導入が 進み競争が激化している。

その中で高品質・高収量を実現する生産の側面だけでなく、いかに高価格で売るかという 販売まで見越したビジネスモデルの確立を目指した。

事業課題の解決策

「プロバイオシスと植物生理学に基づく農法」は、生物を阻害する のではなく酵素等を活用し、細菌や微生物と共生しながら植物本 来の力を引き出すことで病害虫に強い植物を育てる。
この農法の 確立により高品質で栄養の詰まったトマトを安定的に収穫するこ とが可能となった。

夏越し通年栽培高収益トマト栽培
夏越し通年栽培高収益トマト栽培

ハウス内環境は毎週管理計画を作成する。
気 温、湿度、気流、二酸化炭素、水分量など、各種環境因子をIT管理 するだけでなく、異常性の検知からその原因究明・解決方法まで 全てデータ管理し、栽培に活かすことで高収量栽培を実現した。

補助事業の成果

戦国時代と言われるトマト市場で、広域販売し価格競争を行うの ではなく、地元に絞り、自社トマトの価値を訴求するモデルを実 施。
価格や機能だけでなく、コンセプトやストーリー性、社会性を 訴求する手法を確立したことで、価格競争に巻き込まれない販売 を実現した。

本事業で確立した高品質・高収量の生産に加え、高単価での販売を行 うことで、小さな経営面積でも高収益を得られるモデルが確立された。

“収益=収量(生産面)×販売単価(販売面)”であるが、生産面において 収量が平均の約2倍、販売面においても販売単価が平均の約2倍とな り、その結果、経営面積10aの収益は、業界平均の4倍以上となった。

なお、販売においては地元商圏に加え直接販売の比率を高めたことで 高単価販売を実現している。
また顧客が求める情報を精査しPRを行う ことで販売促進につなげている。

会社概要
株式会社みつヴィレッジ
設立平成26年10月1日
代表者代表取締役 八百 伸弥
所在地兵庫県姫路市網干区大江島805
従業員数25人

2.6次産業化

(1)我が家で生産した有機米の加工品製造の効率化と品質向上

事業者:澤田農園

事業課題

先祖代々地元出水で農業を営んでおり、普通期水稲 13haを栽培している。
化学肥料及び化学合成農薬を一 切使用せずに栽培し、合鴨農法による米作りも2ha程 行っている。
有機JASの認定を受け、安心を目に見える 形にして安全な商品をお届けすることにこだわってい る。

事業課題の解決策

我が家のこだわり農法で生産し、有機JASの認定を受けている有機米を使用した“もち” や“米粉パン”の加工品の製造を新たな事業として位置づけ、製造の効率化と品質向上を 図るため製造設備を導入した

“もち” や“米粉パン”の加工設備
“もち” や“米粉パン”の加工設備
補助事業の成果

設備の導入により、餅及び米粉パンの製造効率と品質 が大幅に向上した。
餅は2倍、米粉パンは9倍の生産が可能となった。
有機米を取引している業者は、有機農産物に特化した個人店やレストラン、宅配事業者で、すでに引き合いもあり、製造の効率化と品質向上を達成できた。

焼き前米粉パン
焼き前米粉パン
焼きたて米粉パン
焼きたて米粉パン

会社概要
澤田農園
1977年先代 澤田 英幸 就農
1980年米の減農薬栽培・ 有機栽培を開始
1989年合鴨農法を開始
2003年日本農林規格有機JAS認証取得
事業者 代表者澤田農園 澤田 泰之
設立年月日昭和52年6月1日
所在地等〒899-0123 鹿児島県出水市下鯖町961番地
従業員3名

まとめ

今回は、ドローンの活用、水田の水管理自動化、精密農業、6次産業化について説明しました。

「ものづくり補助金」の農業での申請は、まだあまり多くないようです。
農業の技術革新にもとづく儲かる農業への挑戦には、「ものづくり補助金」は有効です[3][4]
「ものづくり補助金」を活用した、農業の技術革新事業計画の参考になれば幸いです。

出展:

[1]:ものづくり補助事業公式ホームページ/成果事例のご紹介
[2]:【ものづくり補助金申請書】の公募要領に適合し採択される書き方
[3]:補助金で生産性向上し農業所得の増加・儲かる農業を実現(水田作経営)
[4]:補助金による生産性向上で達成する儲かる農業とは(露地野菜作経営)