企業格付け・債務者区分の決まり方と銀行融資を有利に進める方法!!
銀行融資では融資対象の企業を格付けし、融資審査や債権の管理をしています。
そこで本記事では、銀行格付けがどのように決めらるのか、銀行の評価を上げるにはどうすればよいかなどについて、解説しました。
銀行の評価を上げることで、十分な融資を受けられる可能性が高まりますので、ぜひ参考にしてください。
企業格付け
1.企業格付けとは[1]
企業格付けとは、企業から融資の申し込みがあった場合に、融資条件の判断基準となっているのが企業に対する「格付け」です。
企業格付けは、決算書の分析結果に基づく評価(定量的評価)や、経営者の姿勢や経営方針に関する評価(定性的評価)の2種類の評価で決められます。
(1)企業格付けは一般的には11段階に区分される
企業格付け基準は非公表であり各金融機関によって異なりますが、①リスクなし、②ほとんどリスクなし⑨延滞先、⑪事故先などの10~11段階程度に分けられることが一般的なようです。
①から⑥までは、業績のよい企業と判断され、金利条件も低金利に設定されます。
表:企業格付け基準
2.銀行は、どうやって企業格付けするか[2]
企業格付けは3つのステップ(評価)で行われます。
第一次評価(定量評価):決算書の数値に基づく格付け評価です。
第二次評価(定性評価):決算書上に数値化できない要素を拾い上げます。
第三次評価(実態評価):決算書の裏に隠れた返済能力を反映させます。
以下、それぞれのステップについて説明します。
(1)第一次評価 定量評価
第一次評価は、決算書の数値を使って行われます。
決算書の数値は、そのまま格付けソフトに入力されます。格付けソフトは、財務スコアリングモデルといわれる評価基準に基づいて債務者を自動評価します。
この自動評価により、企業格付けは、70~90%決定されます。
下記の第二次評価、第三次評価がどんなによくても、11の企業格付け段階のうち、1~2ぐらいしか評価を上げてもらえません。
それくらい決算書による評価は大きなウェイトを占めています。
評価基準の基礎となる財務スコアリングモデルは、銀行によって多少はことなりますが、大筋は同じです。
(2)第二次評価 定性評価
第二次評価では、決算書上数値で評価しづらい要素について評価します。
評価される要素は、具体的には以下のとおりです。
・経営者の能力
・市場の将来性・成長性
・過去の返済履歴
・経営計画策定能力、財務管理能力
・販売力
・技術力
・マスコミ記事
・業歴
市場の成長性、経営計画力、販売力のウェートが高めに設定されています。
ただし、第二次評価で格付けが大幅に変更されることは稀なことです。
(3)第三次評価 実態評価
第三次評価では、返済潜在力を評価します。
第一次評価や第二次評価の評価対象には該当しない事項で、融資先の融資返済力を左右する事項を評価します。
具体的には、次のような項目です。
・不渡り手形、回収不能売掛金、換金不能な不良在庫、貸付金の回収不能分は資産から控除します。
・土地や有価証券の含み損があれば控除します。逆に土地に含み益があれば、プラスに評価します。
・オーナー、支援者、関連企業に資産余力があれば、プラスに評価します。
・第三次評価で格付けが大幅に変更されることもやはり稀です。
Ⅱ.債務者区分
1.債務者区分の内容[3]
債務者区分とは、銀行融資における債務者の区分のことです。債務者の財務状況、資金繰り、収益力等により、返済の能力を判断して、5段階に分類されます。
1.正常先
2.要注意先
3.破綻懸念先
4.実質破綻先
5.破綻先
(1)正常先
財務内容に問題がない、経営状況も良好で返済遅延などもない企業のことです。
(2)要注意先
・貸出条件に問題のある企業(金利の減額、免除、返済額の引き下げ)
・元本返済・利息支払いが事実上延滞しているなど、返済状況に問題がある企業
・経営状況が低調、不安定な企業
・財務状況が不健全な企業
など今後の管理に注意を要する企業が「要注意先」となります。
(3)要管理先
「要注意先」の中には「要管理先」という細かい分類があります。
「要管理先」は
・3ヶ月以上の延滞となっている企業
・貸出条件緩和債権の企業
が該当します。
(4)破綻懸念先
・まだ経営破たんはしていないが経営難の状況で経営改善計画が進んでいない企業
・実質債務超過の状態の企業
・貸出金の延滞状態が続き、融資の回収に重大な懸念がある企業
が該当します。
(5)実質破綻先
・法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない企業
・実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っている企業
・上記の状態で、事業好転、再建の見通しがない企業
が該当します。
(6)破綻先
法的・形式的な経営破綻の事実が発生している企業です。
2.「債務者区分」の判定方法[2]
企業格付けが終わると、それをベースに、5つの債務者区分へ分類されます。債務者は、正常先、要注意先、要管理先、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先の六段階のいずれかに分類されます。
どの区分に分類されるかによって、新規融資を受けられるかどうかが決まります。正常先より下に分類されてしまうと、融資を新規にうけるのはかなり難しくなります。
(1)正常先
業況が良好であり、かつ、財務内容にも特段の問題がないと認められる債務者。
決算書上は、
・当期利益が黒字
・純資産の部にマイナス表示(累積損失)がない
という条件を基本的には満たしている融資先です。
ただし、赤字であっても、創業赤字の場合、一過性の赤字の場合、会社に十分な余剰資金があるか、経営者に十分な資産があり、債務の返済能力に問題がない場合には、正常先とみなされる場合があります。
正常先は、四つの指標(安全性、収益性、成長性、融資返済能力)によってさらにいくつかの企業格付けに区分されています。同じ正常先でも、上の格付けを与えられた会社のほうが、より有利な融資条件を引き出せます。
(2)要注意先
業績不調で財務内容に問題があったり、延滞があったりする債務者です。前述の10段階の企業格付け評価では、7-1に相当します。貸倒引当率は1~数%ぐらいです。
決算上は、
・当期利益が赤字、
・融資の返済が一ヶ月以上延滞、
・純資本の部にマイナス表示(累積損失)がある
・債務超過
という条件の内一つでも満たす融資先は、該当する恐れがあります。
(3)要管理先
要注意先のなかでも、延滞が3ヶ月以上となっていたり、貸出条件の緩和が行われたりした債務者です。前述の10段階の企業格付け評価では、7-1に相当します。貸倒引当率は、とても高くなり、十五パーセントぐらいになります。
(4)破綻懸念先
現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状況にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者。実質的に債務超過の会社です。
破綻懸念先に企業格付けされますと、まず、新規の融資は受けられません。それどころか、既存融資の早期回収や既存融資金利の上昇なども求められます。
前述の10段階の企業格付け評価では、8に相当します。貸倒率は、70パーセントぐらいになります。
決算書上は、
・二期連続債務超過かつ融資の返済が三ヶ月以上延滞、
・融資の返済が六ヶ月以上延滞
という条件の内一つでも満たす融資先は該当する恐れがあります。
(5)実質破綻先
法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状況にあり、再建の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者。
前述の10段階の企業格付け評価では、9に相当します。
(6)破綻先
法的・形式的な経営破綻の事実が生じている債務者をいい、例えば、倒産・清算・会社整理・会社更生・和議・手形交換所の取引停止処分等の事由により経営破綻に陥っている債務者。
前述の10段階の企業格付け評価では、10に相当します。
Ⅲ.銀行からの評価を上げ融資を有利に進める方法[4]
銀行からの評価を上げ融資を有利に進める方法として、定量評価、定性評価について説明します。
1.定量評価を上げる方法
定量評価を上げる方法
・決算対策
・期末日に現金をできるだけ多く抱えておく
・経常利益率を向上させる
それぞれ詳しく解説します。
(1)決算対策[5]
決算書の内容で、銀行の企業格付けは、80%以上決まってしまいます。決算書の数値で、会社の評価は機械的に決まってしまいます。
企業格付けが決まってしまうと次の決算書ができる一年後まで、企業格付けを変えることはできません。決算書の内容が悪ければ、一年間、事業資金を調達することはできません。
企業格付けを改善するためには、総合的な決算対策が必要です。
①全体バランス
決算書は、利益が計上されていればよいというものではありません。全体のバランスを考えて決算を組まなければなりません。売掛金や在庫残高、負債の大きさ、自己資本残高の大きさも、格付けに大きく影響してきます。
②勘定科目の使い方
たとえば、一例を挙げれば、多くの会計事務所が、処理できない経費を、貸付金や仮払金として処理してしまいますが、銀行は、この貸付金や仮払金をとても嫌います。税務的には正しい処理ですが、企業格付け対策としてはやってはいけない処理です。
③初歩的な会計原則の遵守
銀行マンは、会計の初歩も勉強しているので、一見して公正な会計慣行を無視しているとわかる決算書も嫌われます。
たとえば、減価償却を計上しないで利益を調整したりするとすぐにばれてしまい、企業格付けを下げられてしまいます。
④会計基準の見直し
会計処理の方法を変えることによって企業格付けを改善できることがあります。売上の計上基準を適正化したり、原価計算の実施により在庫評価を見直したりすることにより、決算書の内容を変えることができる場合があります。
⑤運転資金を削減し、借入金の返済に充てる
得意先や仕入先との回収・支払条件を有利にすれば、会社の資金繰りを改善するだけでなく、銀行の企業格付けを改善することができます。得意先には売上代金の回収サイトの短縮を、仕入先には購入代金の支払いサイトの延長を申し入れます。
このことにより、資金繰りが楽になりますので、その余剰資金で借入金を返済します。決算書上、負債の部が減少し、会社の体力が増したことになります。銀行格付けの判断要素である、流動比率、自己資本比率、総資本経常利益率、債務償還年数が改善します。
⑥役員からの借入金を資本金に振り替える
役員からの借入金を決算書に計上している会社をよく見かけますが、これはとてももったいないことです。
『デッドエクウティスワップ』により、借入金を資本金に振り替えることにより銀行の格付けを改善できます。
借入金が減少し、資本金が増加するので、企業格付けの判断要素である自己資本比率が改善し、債務償還年数も短くなります。会社の負債が減少し、資本が増加した訳ですから、会社の体力が増したと解釈され、企業格付けは著しく改善します。
⑦定期預金を解約して借入金を減らす
金融機関からの多額の借入れをしている一方、相当額の定期預金をさしだしている会社を見かけます。
預金を解約し、借入金の一括(一部)返済に充てると、今後の支払い利息が不要になるだけでなく、会社の負債が減少しますので、企業格付けを改善することができます。自己資本比率、債務返済能力が、ともに改善するからです。
(2)期末日に現金をできるだけ多く抱えておく
現金が多いと、銀行は安心します。なぜなら現金は、安全性の判断指標に与える影響が最も大きいからです。
これにより、財務流動性(現金保有比率・当座比率・流動比率)を高めることができます。決算書上、期末日(会計期間の最終日)を基準として数値が確定するため、期末日までに実施するのが効果的です。
具体的には以下の施策が考えられます。
・未回収の売掛金の現金化
未回収の売掛金が計上されたままになっていれば、再請求し、回収可能であれば積極的に回収し、現金化する。
・滞留在庫の現金化する
商品が売れ残ったまま在庫となっている場合は、利益に固執せず売却し、早期に現金化する。
・債務の区分表示の再検討
長期のリース債務が未払金として流動負債になっていることがあるため、1年を超える支払期限のものは長期未払金として固定負債に表示箇所を変更する。
(3)経常利益率の向上
収益性の評価は経常利益までなので、調整できるものは対策しましょう。
例えば、減価償却費や特別損失などです。
・決算賞与の特別損失計上
夏季賞与・冬季賞与と違い、決算賞与は企業業績によるため、毎期経常的に発生するものではないとの観点から特別損失での計上も検討可能。
・減価償却費の調整
法人税法上、減価償却費は任意計上なため、計上しても税務リスクはない。償却限度額の上限までではなく、利益に影響しないように留めれば経常利益を改善可能。
可能な限り調整して、経常利益を低く見えないようにしましょう。
2.定性評価を上げる方法
定性評価を上げる方法
・月次決算の毎月報告
・事業計画書の作成
・資金繰り表の活用
それぞれの内容を詳しく説明します。
(1)月次決算の毎月報告
積極的な情報開示は、銀行を安心させます。業績が悪い状況でもしっかり開示することで、信用を得られるのです。
ただし、悪い状況をありのまま見せるのではなく、以下のようなポイントを抑えた対策は必要となります。
・営業損益ベースでの黒字化
可能な限り費用は営業外費用や特別損失で計上するなど、営業利益を黒字化する。
営業損益で赤字が出ていると、事業の継続性に問題ありと見られます。
・試算表は日頃から作成しておく
試算表とは、1年の損益の途中経過を表した資料です。
試算表は、決算月から3カ月以上経過している時に、最新状況を知るために提出が求められることがあります。
試算表は、日頃から経営管理のために毎月作成し、銀行から提出を求められたら、すぐに最新の試算表を提出できるように準備しておきましょう。
とくに、「前期の決算は赤字でも、今期は黒字に回復している」という場合には、試算表を提出して積極的にアピールをしたいものです。
赤字や債務超過が一過性のものである場合には「この赤字や債務超過は一過性のものである」ということを説明できるように準備しておくことも効果的です。
(2)事業計画書の作成[1]
決算書は過去の数値を表すのに対し、事業計画書は今後の事業からもたらされる収益を表します。融資は今後の事業に対して実行されることを考慮すると、事業計画書は返済能力の根拠として考えられます。
ただし、事業計画はどうしても恣意性が入るので、実行可能な数値と根拠が重要です。
・決算書の内容が悪い企業は「事業計画書」を作成する
事業計画書とは、今後1年の損益や5年~10年の損益はどうしていくのか、そしてその計画を実現するためには、どのようなアクションを起こしていくのかを示した資料です。決算書の内容が悪い企業では、それを挽回するために事業計画書を作成してアピールしたいものです。
事業計画書は何十ページも作成する必要はありませんが、少なくとも以下の項目を含んでいなければなりません。
(1)経営(ビジョン):事業のあるべき姿 (2)商品・サービスの概要:提供する価値 (3)販売計画:手段とコスト構造 (4)開発計画:自社の技術レベルの検討 (5)人員計画:人を活かすオペレーション (6)収益計画:事業の儲かるしくみ (7)アクションプラン:短期計画と中長期計画 |
上記のうち、収益計画(年次損益計画、月次損益計画)とアクションプランだけの提出でも構いません。全く事業計画書を作成しない企業より、ずっと評価はよくなります。
事業計画書は、どのように経営し、どのように利益をあげていくのか、その道筋を銀行に伝えることができるので、銀行から提出を求められなくても積極的に提出しましょう。
(3)資金繰り表の活用[1]
資金繰り表とは、資金の回収状況や債務の支払い状況を月単位でまとめた収支表のことです。資金繰り表を作成することで、融資した資金の使途が明瞭になるため、銀行に安心感を与えられます。また、財務管理に取り組む姿勢もアピールできるのです。
・資金繰り表は、経常収支をプラスにする
月次資金繰り表とは、6カ月~1年先までの毎月の資金繰り予定をまとめたものです。まずは事業計画書を作成して、それを1カ月ごとの損益計画に区分して、入金予想、出金予想を立てます。
資金繰り表は、大きく経常収支、設備収支、財務収支に分けることができます。
経常収支とは、「事業自体でどのような資金繰りとなったか」をあらわすもので、設備収支とは「設備投資や設備売却によって、現金がどう動いたか」をあらわすものです。そして財務収支とは「資金調達と融資の返済による資金の動き」をあらわします。
この時大切なのは経常収支をプラスにして、経常収支のプラスで財務収支のマイナスを補てんしているという内容であることです。経常収支がマイナスでそれを財務収支のプラスで補っているような資金繰りでは、経常収支の赤字を銀行からの借り入れで補てんしていることになってしまうからです。
まとめ
以上、銀行融資の決め手「企業格付け」と「債務者区分」、銀行からの評価を上げ融資を有利に進める方法についてご紹介しました。
銀行からの融資を成功させるためには、企業格付けと債務者区分を上げることが大切であり、どのような決算書や資金繰り表を準備し、アプロ―チをするべきかしっかり把握しておくことが大切です。
出展:
[1]:「格付け」とは|区分・内容・決められ方
[2]:銀行はいかに会社を評価するか~銀行格付けとは~
[3]:銀行融資の企業格付け「債務者区分」
[4]:銀行融資を左右する「信用格付け」とは|銀行評価の上げ方を解説
[5]:銀行の評価をいかに改善するか~銀行格付けの改善方法~