中小企業の事業資金融資を通しやすくする対策

融資の審査に通らないと、必要な資金を調達できずに事業が停止するリスクを高めます。
特に中小企業は大手と異なり、銀行融資の審査を通すことは容易ではありません。
そこで、銀行融資の審査について、審査制度や融資を断られる理由、通しやすくする対策を解説していきます。

目次

Ⅰ.融資の審査制度

融資の審査制度
融資の審査制度

銀行融資は、申し込みから融資実行まで次の6つの流れで進みます。
1.申し込み
2.必要書類の提出
3.面談
4.審査
5.契約
6.融資実行

金融機関ごとに特有の審査制度を持っていますが、どこも概ね同じで以下の流れで進むといわれています。

①格付け
②稟議

銀行の審査を通過するには、格付けと稟議の2段階をクリアする必要があります。

1.格付け[1][2]

格付けは、まず決算書の内容を見て会社を定量的に評価します。決算書の数字を金融機関のシステムに打ち込むと、自動的に点数が付けられる仕組みになっているようです。
続いて、財務分析の結果を補完する形で経営の定性情報が確認されます。たとえば、経営者の真摯な姿勢、業界におけるその会社のポジション、業界自体の成長性などです。

銀行の格付け基準は非公開ですが、一般的には次の11種類に振り分けられることが多いと言われています。
①から⑥までは、業績のよい企業と判断され金利条件も低金利に設定されます。

①リスクなし
②ほとんどリスクなし
③リスク些少
④リスクはあるが良好水準
⑤リスクはあるが平均水準
⑥リスクはやや高いが許容範囲
⑦リスクが高く要管理先
⑧警戒先
⑨延滞先
⑩実質破綻先
⑪事故先

融資先は、格付けにより債務者区分されます。

・正常先 業容が良好であり、財務内容にとくに問題がない会社。
・要注意先 財務内容に問題がある会社。延滞をしていたり、貸出条件に問題があったりする会社も該当します。
要注意先は、一般の注意先と、要管理先にさらに分けられます。3ヶ月以上延滞しり、条件緩和を行ったりした場合は「要管理先」とされます。
・破綻懸念先 実質債務超過の会社で、経営破綻に陥る可能性が高い会社。6ヶ月を超えて延滞している会社も該当します。
・実質破綻先 実質的に経営破綻に陥っており、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間、陥っている会社。
・破綻先 法的・形式的に経営破綻している会社。

正常先に分類してもらえれば、問題ありません。お金をちゃんと貸してもらえます。
要注意先となると、貸して貰うためにはちょっと苦労します。
要注意先の要管理先以下の会社は、お金は、貸してもらえません。

2.稟議[3]

融資対象の格付けを確保したら、稟議に進みます。銀行の融資担当者が稟議をあげるという段階で、ここで融資額や金利、返済条件などが決まります。

稟議書に書く内容はおおむね以下の8点です。

①必要金額
②資金使途
③保全
④返済能力
⑤金利
⑥期間・種類
⑦融資効果
⑧担当者の見解

それぞれ説明します。

(1)必要金額

担当者が融資の申込金額を妥当と判断した理由が書かれます。
通常は、運転資金であれば、計上運転資金(売上債権+棚卸資産-仕入債務)の範囲内にあれば適正と判断されます。
設備資金であれば、見積書などで妥当性が確認されます。

借りる金額についても、根拠立てて稟議にかけないといけないので、借入金額は論理的に説明できるかどうかが重要です。

(2)資金使途

資金使途とは、お金の使い道のことをいいます。
設備資金であれば、どんな設備を購入するのか、またその設備によりどれくらい利益が出るのかについて説明が必要です。
運転資金であれば、なぜ運転資金が必要になったのかについて説明を求められます。

(3)保全

保全とは、担保や保証人など、いざというときの債権回収の手段のことです。
長期の融資ほど貸し倒れのリスクは上がるため、保全が必要になる場合が多いです。
中小零細企業が融資を受ける際には、信用保証協会の保証付きの場合も多いです。

(4)返済能力

返済能力とは、返済できる財源の根拠のことです。
短期融資であれば、売上が返済財源となるので、受注明細等が示せれば返済財源を表す根拠となります。
長期融資であれば、事業活動による≪税引き後利益+減価償却-運転資金増加-設備投資≫が返済財源となるので、資金繰り表等で返済根拠を示すことが重要です。

(5)金利

金融機関の格付け等に応じて金利が設定されます。
格付けの他にも、担保や保証人の有無によっても金利は変わります。
また、貸出期間が長いほど金融機関にとってはリスクも高くなるため、金利は高くなります。

(6)期間・種類

融資の種類や貸付期間を記載します。
期間が長ければ長いほど信用リスクも高くなりますので、金利や保全等他の要素との兼ね合いとなります。

(7)融資効果

融資効果については2つの側面があります。

1つは、申込企業にとっての効果です。
融資を受けることで将来的にいくらの利益が上がるのか等、融資を受けることによる金銭的なメリットや今後の展望を記載します。

もう1つの側面は、銀行にとっての効果です。
融資を実行することで、金融機関にとってどのようなメリットがあるのかについても記載します。

(8)担当者の見解

稟議書には、担当者の意見についても記載されます。

Ⅱ.融資を断られる理由[4][5]

融資を断られる理由
融資を断られる理由

融資の審査において、お金を貸しても返済が遅れるとか返ってこないなど、不安な要素があると判断されと通りません。

1.金融事故歴がある
2.業績不振:赤字決算や債務超過
3.返済原資を捻出する見込みがない
4.事業計画の甘さ
5.担保・保証人の不足
6.消費者金融から借入れがある
7.税金・公共料金を滞納している
8.経営者の資質への疑問

について説明します。

1.金融事故歴がある

銀行は個人信用情報機関に加盟しているため、審査では信用情報を照会することになりますが、金融事故歴が記録されていれば審査には通りません。

借金返済の滞納や債務整理など、信頼を著しく損ねていないか思い返してみましょう。

2.業績不振:赤字決算や債務超過

銀行にとって、企業の業績は融資判断の最重要項目です。特に、赤字決算や債務超過の状態は、返済能力に大きな疑問符がつくため、融資が困難になります。

3.返済原資を捻出する見込みがない

決算書から返済原資を捻出できる見込みがないと判断されると、銀行融資の審査に通りません。 借りたお金を返すための資金となる原資が確認できなければ、たとえお金を貸しても返済が滞ったり貸し倒れになったりするからです。

4.事業計画の甘さ

具体性や実現可能性に乏しい事業計画は、融資断りの大きな要因となります。銀行は、融資金の使途や返済計画が明確で、かつ実現可能性が高いことを求めます。綿密な市場分析や競合状況の把握、具体的な数値目標の設定が重要です。

5.担保・保証人の不足

担保や保証人は、銀行にとってのリスクヘッジです。十分な担保や適切な保証人がいない場合、融資が難しくなる可能性が高まります。特に、経営者の個人保証や不動産担保は重要視されます。

6.消費者金融から借入れがある

消費者金融からお金を借りていれば、高金利の利子を返すことになるため、資金繰りに影響を及ぼします。
金利の高いノンバンクからお金を借りていることで、信用力に問題があると疑われる可能性があります。

7.税金・公共料金を滞納している

税金は納税証明書から未払いがないか確認することができ、社会保険料は決算書で預り金に計上されている金額の多寡で支払い状況の推察が可能です。

公共料金に関しても、年度内にいつからいつまでの料金が支払われているかによって、確認することができれば、滞納していたことを知られてしまいます。

そのためこれらの支払いを滞納している場合、返済能力が足りていないと判断され、銀行融資の審査には通らなくなります。

8.経営者の資質への疑問

銀行は経営者の資質も重視します。財務管理能力の不足や、事業に対する理解が浅いと判断されると、融資が困難になります。また、過去の経営トラブルや個人的な信用情報も影響を与える可能性があります。

Ⅲ.融資を通しやすくする対策

融資を通しやすくする対策
融資を通しやすくする対策

前章で解説した融資断りの理由を踏まえ、ここでは具体的な対策をご紹介します。これらの対策を実践することで、融資獲得の可能性を高めることができるでしょう。

1.決算書
2.事業計画
3.資金使途
4.返済財源

について説明します。

1.決算書[6][4]

銀行は、融資判断において、決算書だけでなく、事業内容や将来性等を考慮して評価するように金融庁から指導されています。
しかし、定性的な評価は、とても難しいのでやはりどうしても決算書中心の評価になってしまうのです。
銀行の評価をよくしようとして、粉飾をする会社は、少なくありません。
しかし銀行は、粉飾を見抜くために、さまざまな分析をしています。安易な粉飾は失敗します。

ですから、決算の半年前には、決算予想をして、戦略的な決算対策を打つことが大切です。

(1)売上増加策

顧客の需要にあった製品やサービスの改善。
計画的・組織的な営業、販促の見直し等が必要です。

(2)不採算事業の見直し 

部門別の損益が分かるようにすることが大事です。
その事業を行うことによって会社にプラスになるのかどうか検討し、「撤退」等を考えます。

(3)コスト削減

業務改善や、オーバースペックとなっている製品やサービスのコスト削減を実施します。

(4)在庫管理の適正化

在庫管理の適正化とは、企業が需要に対して過不足のない最適な在庫水準を設定することです。
在庫を適正に管理することで、コスト削減や機会損失の回避、顧客サービスの向上などのメリットが期待できます。

・リアルタイムな在庫情報管理。
・適正在庫の可視化。
・需要予測の精度向上。

等を実施します。

(5)債務過多の改善

過剰な負債は企業の財務健全性を損ない、新規融資の障害となります。
債務過多の状況を改善するには、負債の整理と見直しが不可欠です。

対策として以下のアプローチが考えられます。

・債務の棚卸し:すべての負債を洗い出し、金利や返済条件を整理する。
・リファイナンス:高金利の借入を低金利のものに借り換える。
・資産の売却:不要な資産を売却し、負債の返済に充てる。

(6)資金繰りの改善

資金繰りの悪化は、企業の存続に直結する重大な問題です。
銀行は企業のキャッシュフローを重視するため、その改善は融資獲得の鍵となります。

キャッシュフロー改善のためのコツは以下の通りです。

・売上サイクルの短縮:請求書の早期発行や回収期間の短縮を図る。
・仕入れ条件の見直し:支払いサイトの延長や分割払いの交渉を行う。
・在庫管理の最適化:過剰在庫を削減し、在庫回転率を向上させる。
・固定費の見直し:不要な経費を削減し、可能な限り変動費化を図る。

特に重要なのは、売上の確保と同時に、支出の適切な管理です。キャッシュフロー計画を立て、常に実績との差異を分析し、迅速に対応することが求められます。

2.事業計画[7]

(1)明確な事業目標

事業計画の明確な事業目標とは、企業が将来達成すべき状態や結果を示すもので、事業を進める指針となります。

(2)具体的な戦略と施策

事業計画における具体的な戦略と施策とは、事業の目的や目標を達成するための道筋と、その道筋に従って実行する行動計画のことです。

(3)実現可能な数値計画

特に重要なのは、計画の実現可能性です。過度に楽観的な計画よりも、現実的で着実な成長を示す計画の方が信頼を得やすいでしょう。

(4)競合との差別化

市場分析と自社の強みを明確に示し、競合との差別化ポイントを具体的に説明することが重要です。

(5)運転資金の使途

運転資金の使途については、調達した資金がどのように売上増加や利益改善につながるのかを、数値を用いて論理的に説明できることが求められます。

(6)リスク要因とその対策

リスク要因とその対策についても言及し、経営者として現実的な視点を持っていることをアピールしましょう。

3.資金使途[8]

銀行は、前向きに使われるお金しか貸してくれません。事業のためにお金がつかわれ、それが増殖するプロセスが見えないと貸してくれないのです。
銀行が前向きとみなしてくれる使い道は、大きく分けて、2つです。

・設備投資系:内装、器具備品購入、ソフトウェア投資、事務所の敷金保証金など
・運転資金系列:人件費、家賃、広告宣伝費、在庫、売掛など

いずれも、お金が増殖する、積極的なお金の使いかたです。

(1)設備投資

設備投資系の場合は、将来の売上確保のための適正投資と判断されれば、購入金額分だけ貸してもらえます。

(2)運転資金

運転資金系の支出は、通常は3ヶ月の支出が限度です。
3ヶ月以内に、経費に見合う収入ぐらいは、稼げるようになってくださいということです。

(3)資金繰り計画表

過去の決算書がぎりぎりの黒字か、あるいは小規模な会社の場合、融資審査を通すには努力が必要です。
資金繰り計画表をつくって、資金使途が赤字補填ではなく、前向きな事業投資であることを説明する必要があります。

4.返済財源[8]

借りたお金をきっちりと返せることを、銀行に納得してもらわなければなりません。

(1)資金繰り計画表

返済財源がしっかりとあることをアピールするために、資金繰り予定表を作ってください。

資金繰り計画表の信頼性が高いほど、銀行は返済原資がしっかりしていると判断してくれますので、売上明細とか仕入明細といった基礎資料も整備しておいてください。

また、銀行は過年度の資金繰り表と比べますので、資金繰り計画表と過去の資金繰り実績に大きな変化があるようであれば、きちっとした説明ができるようにしておいてください。

(2)短期借入金の返済財源

短期の借入金の返済財源は、売上代金です。
運転資金を借りた場合は、将来の売上によって資金が回収され、借入を返済できることを明らかにする必要があります。

(3)長期借入金の返済財源

設備投資のための長期借入金の返済原資は、事業活動による資金繰りです。
設備投資は、長期にわたって事業に使われることを通じて、会社にお金をもたらします。
したがって次式が、会社が事業から作り出す資金繰りです。

≪税引き後利益+減価償却-運転資金増加-設備投資≫この資金繰りの15年分が、会社が作り出すことのできる長期返済原資です。
その額までは、銀行はお金を貸してくれます。

Ⅳ.財務内容の良くない企業の融資を通しやすくする対策[9][2]

財務内容の良くない企業の対策
財務内容の良くない企業の対策

赤字になると多くの場合は、銀行から評価を下げられ、新規借り入れが難しくなります。
ただし、赤字であっても、次のような場合には、評価を下げられません。
・一過性の赤字の場合
・創業赤字の場合
・会社に十分な余剰資金や売却可能資産があり、債務返済能力に問題がない。あるいは、経営者に十分な資産があり、債務弁済に問題がない。

1.一過性赤字の場合

一過性の赤字とは、本業以外の理由で発生する一時的な赤字を指します。
設備投資や災害、固定資産の売却損などが原因として考えられます。

(1)一過性の赤字であることの説明

①赤字の理由

固定資産の売却損、滞留在庫の処理、役員退職金、リストラクチャリングコストなど明らかに一時的な要因について説明します。

②翌期には黒字化できる見込み

事業計画書で、翌期には黒字化できる見込みがあることを示し、今期は一過性の赤字であることを納得してもらいます。

まず、商品別、顧客別、地域別にビジネスを分析して、自社の強みを数値的に把握します。
売れている商品、利益がでている顧客、利益の出ている部門があるはずです。
その部門がいまだに健全に利益を出しており、次の年度は会社を黒字にすることを事業計画書で立証するのです。

2.赤字になったらすぐに手を打つ

会社は、一瞬でも赤字になったらすぐに手を打ち、決算書が傷つかないようにしなければなりません。
手を打つのが遅れれば、決算書は傷つき資金調達できなくなります。

赤字対策に有効なのが、PDCAサイクルといわれる経営手法です。
PDCAサイクルとは、事業計画と実績を常に比較検証する経営システムのことをいいます。
事業計画を計画(Plan)し、それを実行(Do)し、実績と事業計画を比較・検証(Check)して、その検証結果に基づいて事業計画を改善(Act)して次の実行へつなげていく経営管理手法です。

PDCAサイクルを導入していると、赤字となった翌月には原因究明と対策検討がすばやく実行されます。

まとめ

ここまで、融資が断られる理由と、融資を通しやすくする対策について解説してきました。
これらの対策を適切に行い、必要な資金を円滑に調達してください。

出展:

[1]:企業格付け・債務者区分の決まり方と銀行融資を有利に進める方法!!
[2]:銀行は必ずあなたの会社を格付けします
[3]:銀行マンから聞いた!融資稟議書には何を書くのか?
[4]:銀行融資が断られる7つの理由と今からできる5つの対策!
[5]:銀行融資の審査とは?審査規準と難易度・通らないときの対処法を解説
[6]:銀行融資を受けるための鉄則
[7]:銀行融資が通らない理由と対策!審査基準や通らない時の対応策とは?
[8]:借りるコツは、返せることを示すこと
[9]:赤字になったときの銀行対策