中小企業経営者の皆さん必見!融資担当者のバイブル「金融庁方針」

本記事では、2013年12月以降の金融庁より公表された「金融行政方針」に関する情報をお届けします。
「金融行政方針」は、金融市場の安定や金融機関の監督などを目的とし金融機関の行動を拘束するもので、融資担当者は必ず意識せざるを得ないいわばバイブルです。
コロナ資金の借り換え、経営者保証免除など、事業融資の課題を抱えている中小企業経営者の皆さんは、融資交渉時ぜひ参考にしてください。

Ⅰ.コロナ資金繰り支援策の転換を踏まえた事業者支援の徹底等について[1]

金融庁は、2024年6月7日内 閣府 財務省 厚生労働省 農林水産省 水産庁 中小企業庁と連名で、HPに以下の掲載をしました。

「前文
7月以降は、能登半島地震の被災地に配慮しつつ、各種資金繰り支援策についてはコロナ前の水準に戻し、経営改善・再生支援に重点を置いた資金繰り支援とします。
具体的には、コロナセーフティネット保証4号やコロナ借換保証は6月末の期限を以て原則終了し、同様に、日本政策金融公庫等の新型コロナウイルス感染症特別貸付等の金利引き下げについても終了する予定です。
ただし、今なお、コロナ禍の影響に苦しむ事業者への再生支援を強化するとともに、また、円安等に伴う資材費等の価格高騰等で苦しむ事業者向けの制度は継続します。」

本文は、
1.コロナ資金繰り支援策の転換
2.信用保証付融資における経営者保証
等について述べられています。

1.コロナ資金繰り支援策の転換

コロナ資金繰り支援策の転換について、表に整理しました。

表:コロナ資金繰り支援策の転換

2.信用保証付融資における経営者保証

「①信用保証協会及び民間金融機関においては、本年3月より申込受付を開始した、信用保証料上乗せにより経営者保証の提供を不要とする信用保証制度を含む信用保証付融資における経営者保証の提供を不要とする取組みについて事業者に周知し、積極的な活用を促すこと。」

「②その際、信用保証協会においては、経営者保証を提供する保証申込について、信用保証料上乗せにより経営者保証の提供を不要とする信用保証制度に関して事業者が説明を受けたことを、申込金融機関を介するなどして確認すること。」

Ⅱ.金融庁の中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針[2]

金融庁の「総合的な監督指針」とは、金融検査・監督を担う職員向けの手引書として、基本的な考え方や、監督上の評価項目等が記載された文書です。
「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」は、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合を対象としています。地域金融機関は「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」の内容を遵守しなければなりません。

融資に関係する事項を表に整理しました。

表:中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針(2024年7月)

Ⅲ.融資における経営者保証の軽減

1.融資における経営者保証ガイドライン[3]

近年の後継者不足による中小企業の倒産が社会問題となっていることを背景に、事業継承負担感軽減のため、「経営者保証を必ずしも必要としない」という動きになってきています。
その動きの1つとして2014年2月1日に「経営者保証に関するガイドライン」の策定・適用があります。
「経営者保証に関するガイドライン」とは、中小企業団体及び金融機関団体の関係者、学識経験者、専門家等の議論を踏まえ、中小企業の経営者の個人保証の取扱いに関して、中小企業団体及び金融機関団体共通の自主的自律的な準則として、策定・公表されたものです。

経営者保証に関するガイドライン研究会は、2013年2月全国銀行協会のHPに以下のガイドラインを掲載しました。

(1)経営者保証に依存しない融資の一層の促進

①主たる債務者及び保証人における対応

「主たる債務者が経営者保証を提供することなしに資金調達することを希望する場合には、まずは、以下のような経営状況であることが求められる。」

イ) 法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されている。
ロ) 法人と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えない。
ハ) 法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断し得る。
ニ) 法人から適時適切に財務情報等が提供されている。
ホ) 経営者等から十分な物的担保の提供がある。

(2)経営者保証の契約時の対象債務者への対応

①主たる債務者や保証人に対する保証契約の必要性等に関する丁寧かつ具体的な説明

「金融機関は、やむを得ず経営者保証を求める場合には、保証契約の可能性等について丁寧かつ具体的に説明すること。」

②適切な保証金額の設定

「保証金額を形式的に融資額と同額とするのではなく、保証人の資産・収入状況や主債務者の信用状況等総合的に勘案して設定すること。」

2.融資における経営者保証改革プログラム

(1)「経営者保証改革プログラム」の策定について[4]

2022年年12月23日 経済産業省 金融庁 財務省は、HPに以下のを掲載しました。

「金融庁は、経営者保証に依存しない融資慣行の確立を更に加速させるため、経済産業省・財務省とも連携の下、「経営者保証改革プログラム」を策定しました。
金融庁においては、民間金融機関による融資に関し、監督指針の改正により、保証を徴求する際の手続きを厳格化することで、安易な個人保証に依存した融資を抑制するとともに、事業者・保証人の納得感を向上させることとしています。 また、「経営者保証ガイドラインの浸透・定着に向けた取組方針」の作成、公表の要請等を通じ、経営者保証に依存しない新たな融資慣行の確立に向けた意識改革を進めることとしています。」

(2)経営者保証に依存しない融資慣行の確立加速[5]

2022年12月23日 経済産業省 金 融 庁 財 務 省は、HPに以下の「経営者保証改革プログラム」を掲載しました。
「経営者保証は、経営の規律付けや信用補完として資金調達の円滑化に寄与する面がある一方で、スタートアップの創 業や経営者による思い切った事業展開を躊躇させる、円滑な事業承継や早期の事業再生を阻害する要因となってい るなど、様々な課題も存在する。
このような課題の解消に向け、これまでも経営者保証を提供することなく資金調達を受ける場合の要件等を定めた ガイドライン(経営者保証ガイドライン)の活用促進等の取組を進めてきたが、経営者保証に依存しない融資慣行の確立を 更に加速させるため、経済産業省・金融庁・財務省による連携の下、①スタートアップ・創業、②民間融資、③信用保証 付融資、④中小企業のガバナンス、の4分野に重点的に取り組む「経営者保証改革プログラム」を策定・実行していく。」

①民間金融機関による融資 ~保証徴求手続の厳格化、意識改革~

「監督指針の改正を行い、保証を徴求する際の手続きを厳格化することで、安易な個人保証に依存した融資を抑制す るとともに、事業者・保証人の納得感を向上させる。
また、「経営者保証ガイドラインの浸透・定着に向けた取組方針」の作成、公表の要請等を通じ、経営者保証に依存しな い新たな融資慣行の確立に向けた意識改革を進める。」

ア.金融機関が経営者等と個人保証契約を締結する場合には、保証契約の必要性等に関し、事業者・保証人に対し て個別具体的に以下の説明をすることを求めるとともに、その結果等を記録することを求める。
イ.ア.の結果等を記録した件数を金融庁に報告することを求める。
ウ. 金融庁に経営者保証専用相談窓口を設置し、事業者等から「金融機関から経営者保証に関する適切な説明がな い」などの相談を受け付ける。
エ. 状況に応じて、金融機関に対して特別ヒアリングを実施。

Ⅳ.金融庁の事業性融資推進法

2024年3月金融庁のHPに掲載された「事業性融資の推進等に関する法律案 説明資料」[6]では、事業性融資の推進等に関する法律案の概要として、
「事業者が、不動産担保や経営者保証等によらず、事業の実態や将来性に着目した融資を受けやすくなるよ う、事業性融資の推進に関し、「基本理念」、「国の責務」、「事業性融資推進本部」、「企業価値担保権」、 「認定事業性融資推進支援機関」等について定める。」
とあります。

1.事業性に着目した融資の推進に関する業務の基本方針[7]

事業性に着目した融資の推進に関する業務の基本方針を2023年 12 月1日 閣議決定しました。

閣議決定として、
「金融機関等が不動産担保や経営者保証等に安易に依存するのではなく、事業者の実態や将来性を的確に理解し、その特性に着目した融資を行う必要がある。」
とあります。

2.金融庁の事業性融資推進法[6]

「事業性に着目した融資の推進に関する業務の基本方針」を反映した事業性融資推進法が、2024年6月に参院本会議で可決し、成立しました。今後、必要な準備を進めたうえで2年半以内に施行予定です。
事業性融資推進法は、次のような事業者の利用を想定しています。

・有形資産に乏しいスタートアップ
・経営者保証により事業承継を躊躇している事業者
・事業再生に取り組む事業者

事業性融資推進法の最大のポイントは、企業価値担保権創設です。
企業価値担保権とは、不動産担保や経営者保証などによらず、事業の実態や将来性に着目し、担保目的財産を会社の総財産(無形資産含む事業価値)とするものです。

Ⅴ.金融庁の金融検査

金融検査とは、金融庁の検査官が金融機関の経営状況やリスク管理態勢などを検査することです。
金融機関の業務の健全性や適切性を確保することを目的としており、問題点を指摘して業務改善につなげることを目指しています。
実施手順書として、金融検査マニュアル、金融検査マニュアル別冊が過去に発行されました。

1.金融検査マニュアル[8]

「金融検査マニュアル」は、バブル崩壊後の不動産向け融資を中心とした不良債権への対応を目的に1999年に導入、2019年12月18日金融庁は「金融検査マニュアル」を廃止しました。
廃止の理由は、「金融検査マニュアル」が各金融機関の特異なビジネスモデルや戦略と「切り離す」格好で画一的で機械的な対応になって、時代にそぐわなくなったためです。
今回の廃止を受け、金融機関は融資先の事業の将来性を見据えた柔軟な対応が可能となり、財務状況が厳しい企業への支援を独自の判断で行うことが期待されています。

2.金融検査マニュアル別冊[9]

金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)は、中小企業向け融資に焦点を当てた金融検査の手引書(事例集)です。
平成11年(1999年)7月に作成された金融検査マニュアルにおいて、債務者区分の記述が分かりにくいこともあり、中小・零細企業等に対して「金融検査マニュアル」が機械的・画一的に適用されていました。
そこで、平成14年(2002年)6月に中小・零細企業等の経営状態や将来性の評価のためには、財務状況だけでなく、きめ細かい経営実態把握が欠かせないことを踏まえ、金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)が作成、公表されました。

3.金融庁、「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」を公表[10]

金融庁は、2019年 12 月に「検査マニュアル廃止後の 融資に関する検査・監督の考え方と進め方 」を公表しました。

(1)金融庁の融資に関する検査・監督の基本的な考え方

①金融機関の健全性と金融仲介機能の発揮との関係

「当局は、個別金融機関の健全性を評価するに際して、その前提となる 各金融機関の個性・特性や実態の正確な把握を通じて、どのような形で金融仲介 機能の発揮に取り組んでいるのか、又は取り組もうとしているのかを理解した上で、 金融仲介に伴い発生するリスクを特定・評価し、健全性上の優先課題について対話 を行っていく。」

②金融機関の個性・特性に即した検査・監督

「当局としては、金融機関それぞれの経営理念・戦略が多様であること から、これらに基づく金融機関の内部管理態勢にも多様性があることを理解し、金 融機関の個性・特性に着目し、これに即した検査・監督を行っていく。」

(2)金融庁の融資に関する検査・監督の進め方

①金融機関の個性・特性に即した実態把握と対話

「金融機関がどのような環境にあって、何を目指しているのか(経営 理念)、そのためにどのような融資方針を採っているのか、実際の融資業務の進め 方や収益状況と融資方針との関係はどうか、融資業務からどのような信用リスクが 生じるのかといった観点から、各金融機関の個性・特性に即した切り口から着眼点 を検討し、リスクベースでの実態把握を行う。」

まとめ

融資を実施するには、その背景にある金融庁の方針を理解することが必要です。それは、金融機関の融資行動の根幹を形成しているためです。
金融庁は、各種資金繰り支援策についてはコロナ前の水準に戻し、経営改善・再生支援に重点、経営者保証に依存しない融資、事業性融資の推進などの方針を表明しています。    

金融庁の方針を理解し融資活動を成功させることで、経営の安定と持続的な成長を図りましょう。  

出展:
[1]:「コロナ資金繰り支援策の転換を踏まえた事業者支援の徹底等について」(2024年6月7日)内閣府 金融庁 財務省 厚生労働省 農林水産省 水産庁 中小企業庁
[2]:中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針
[3]:「経営者保証に関するガイドライン」経営者保証に関するガイドライン研究会 2013年12月
[4]:「経営者保証改革プログラム」の策定について
[5]:経営者保証改革プログラム
[6]:事業性融資の推進等に関する法律案 説明資料(2024年3月)
[7]:事業性に着目した融資の推進に関する業務の基本方針
[8]:金融検査マニュアルについて教えてください
[9]:金融検査マニュアル別冊
[10]:検査マニュアル廃止後の 融資に関する検査・監督の考え方と進め方(2019年12 月)金融庁