補助金による生産性向上で達成する農業所得の増加(露地野菜作経営)
露地野菜作農業者の皆さんは、「農業所得の増加はどうしたら達成できるか」日頃模索していませんか。
前の資料で、農業の課題である労働生産性の向上と高付加価値化につて解説しました。「18」
また、ものづくり補助金をつかった農業の技術革新事例についても説明しました。「19」
この資料では、補助金を活用した機械化・設備化とネットショップ販売で、農業所得をサラリーマン以上に増加する方法について解説します。
農林水産省のデータをもとに分析しています。
是非、農業所得増加の参考にしてください。
Ⅰ.農業所得の現状(露地野菜作経営)
農林水産省のデータによると、露地野菜作経営(全国・個人経営体)の農業所得は作付面積69aで155万円と非常に低いです。
農業経営費を固定費と変動費分解し、農業所得の増加について分析します。
1.農業所得[1]
農林水産省のデータ営農類型別経営統計( 露地野菜作経営 個人経営体)を、農業所得について整理すると以下のようになります。
農業粗収益[2]:農業粗収益には、農業経営の成果である農産物等の販売収入、現物外部取引額、農業生産現物家計消費額、農作業受託収入等の収入を計上。
農業経営費:農業経営費には、農業粗収益を上げるために要 した資材や料金の一切の費用を計上。
農業所得:農業粗収益-農業経営費
固定費:雇人費、地代・賃借料、租税公課、減価償却費等
変動費:種苗費、肥料費、農薬衛生費、諸材料費、動力光熱費、荷造運賃手数料等
農業所得は、作付面積が大きくなると増加しますが、169aでも256万円でサラリーマン年収443万円[13]に比較すると少ないです。
2.固定費
固定費は、作付面積が大きくなると増加。
作付面積が大きくなると、減価償却費も増加。
機械や設備は、固定的ではなく作付面積が大きくなると増設・増強されています。
3.CVP分析(0.5ha~1.0)
作作面積0.5ha~1.0で、固定費を固定し、同一の変動費率で変動費を変動させ、農業所得を計算します。
CVP分析: (Cost-Volume-Profit Analysis)コストを変動費と固定費に区分した上で、利益と販売数量・金額、コストの関係について分析する方法です。
作付面積0.5haを1.0haに拡大し、固定費(雇人費、減価償却費)一定とすれば、農業所得は74万円から203万円に増加します。
Ⅱ.労働生産性向上(露地野菜作経営)[18][19]
機械化、IT化により労働生産性を向上し、雇人費を増加せず作付面積69aを100a拡大します。
1.機械化
(1)農業用ドローン[3]
農薬散布にとどまらず施肥や播種にも利用します。
DJIの農業用ドローンは、高性能のセンサーを備えたフライトコントローラーにより、常に安定した自動航行が可能で、1回の飛行で10kgの液体農薬を散布できます。
参考価格は、上位機種のMG-1Pが約130万円です。
(2)うね立て同時播種USシーダーBS-4US[4]
うね立て同時播種作業を行います。
テイラー用 向井工業 播種機(4条) BS-4US
大根 ほうれん草 人参 レタス 白菜 カブ 野菜用 L1Rベルト ディスク型溝きり ベルト2種類付
通常価格 370,975 円(税込)
(3)ブロッコリー収穫機[5]
ブロッコリー収穫機HB1250,A
ヤンマーホールディングス(株)
引き抜きから搬送、上葉と茎のカットの工程を1台で!
9,328,000円(税込み)
(4)ほうれん草収穫機
クボタほうれん草掘取機 KLH1300
露地ほうれん草用
推定価格 300万円
参考:クボタほうれん草収穫機SPH400(ハウス栽培ほうれんそう用)[6]
メーカー希望小売価格(税込)3,036,000円
(5)軟弱野菜調製機[7]
クボタ軟弱野菜調製機NC301
適応作物:ほうれん草、小松菜等
コンベアに並べるだけで、[根切り][下葉取り]の調製作業が簡単・高能率!
従来機(NC300)の約1.5倍、手作業の2~3倍の高能率を実現
最大500㎜までの作物に対応
メーカー希望小売価格1,261,700円(税込)
2.IT化
ECサイトを構築し、ASP型ネットショップを開設します。
(1)ECサイト構築
ECサイトは、有料レンタルショッピングカート構築、無料ショッピングカート構築、モール型ECサイトへの出品、専用システム構築等が考えられます。
ASP型ネットショップで独自ドメインを使用し、個性的なページ作りに成功すれば、他社の商品との違いや自分の商品のこだわりをアピールしやすく、ブランドを確立しやすくなります。
ネットショップは、使用できる機能が非常に多く、カスタマイズ性にとても優れているASP型のMake shopで構築します。
メルマガ配信はもちろん、ユーザーの行動履歴に基づいたレコメンド機能やSNS連携機能、外部解析ツールのタグ設置など、全651もの機能を備えています。
ショッピングカートASP(独自ドメイン)の費用[8]
MakeShop(メイクショップ)プレミアムプラン
月額プラン料金 | 11,000円(税抜10,000円)長期割引で最大15%OFF |
初期費用 | 11,000円(税抜10,000円) |
商品登録数 | 10,000 |
SSL証明書 | 13,200円/年間(税抜12,000円/年間) |
決済手数料 | 3.19%~(VISA/Master使用時) |
決済手数料 | JCB/American Express/Diners 3.49%(上記以外) |
月額費用 | 1,100円(税抜1,000円) |
ネットショップシステム開発費用
店舗設計 5日
ページデザイン 10日
商品登録 5日
運用設定 5日
合計 25日
制作費:25×5万円=125万円
Ⅲ.農業所得の増加(露地野菜作経営)
野菜作付面積69a(農業所得155万円)に対し100aまで拡大し、農業粗収益増大と固定費(減価償却費)の増加抑制で農業所得の増加を図ります。
またネットショップで、販売価格向上による農業所得の増加を図ります。
1.作付面積の増加
農業用ドローン、うね立て同時播種、ほうれん草収穫機、ブロッコリー収穫機、軟弱野菜調製機、IT化により、労働生産性を向上させます。それにより雇人費を増やさず、野菜作付面積を増加させます。
2.販売価格の向上
野菜の販売価格の向上には、直接販売や直販所、ネットショップ販売で可能です。
効率性や量的拡大を考え、従来のJAや卸売市場出荷に加えネットショップで販売します。
(1)販売価格
卸売価格:青果物卸売市場調査(日別調査)[9]
小売価格:食品価格動向調査(野菜)農水省[10]
で比較する。
キャベツ | ねぎ | レタス | たまねぎ | トマト | にんじん | はくさい | だいこん | 平均 | |
青果物卸売市場調査(令和4年 12月 20日 ) | 78 | 354 | 209 | 111 | 394 | 143 | 51 | 70 | 176 |
小売価格(令和4年12月19日の週) | 640 | 424 | 754 | 274 | 754 | 359 | 138 | 136 | 358 |
小売価格は卸売の358/176*100=2.03倍
ネットショップでの販売価格は卸売の2倍に設定します。
(2)販売量
2017年7月26日に開催された「楽天EXPO 2017(東京)」の公開情報だと、店舗の売上比率はこのようになっています[11]
月商 | 2016年6月 | 2017年6月 |
1億円 | 135店舗 | 159店舗 |
3000万 | 635店舗 | 735店舗 |
1000万 | 2162店舗 | 2236店舗 |
300万 | 5863店舗 | 6033店舗 |
2017年の出店数は約45,000店舗なので、月商300万未満のショップは約36,000店舗。
300万以上売れてるのは合計9,163店舗と全体の約20%、残りの80%は300万未満の売上です。
ネットショップ販売で1,000万円売上とします。
(3)販売方法[12]・作業量
各種野菜セット、単体を段ボール詰めして以下のように出荷します。
作業量は、250日稼働、2,500円/段ボールとすると
10,000,000円/2,500円/段ボール=4,000段ボール
4000/250日=16段ボール/日
年間1,000万円販売するには、2,500円/段ボールで1日当たり16段ボール出荷となります。
3.補助金による減価償却費の削減
補助金を活用し、固定費増加抑制により減価償却費を削減します。
(1)補助金
機械化、IT化の補助金は、以下のものがあります。
ものづくり補助金[14]
「ものづくり補助金」は、生産性向上のための設備投資を支援する補助金制度です。
中小企業もしくは小規模事業者に該当すれば、農業でも経済産業省が実施する「ものづくり補助金」を活用できます。
補助金の上限は従業員5人以下小規模事業者の場合750万円で、費用の3分の2が補助されます。
小規模事業者持続化補助金(一般型)[15]
日本商工会議所が実施する「小規模事業者持続化補助金(一般型)」は、主に商業・サービス業・製造業などが対象の補助金制度です。
しかし自身で生産した農産物を販売する場合、製造業として農家も補助金の対象になります。
補助金の上限は原則50万円で、補助率は費用の3分の2です。
産地生産基盤パワーアップ事業[16]
高性能な機械・施設の導入などに対し総合的に支援することがうたわれています。
地域農業再生協議会等が連携し、目標などを設定した「産地パワーアップ計画」を作成したうえで、その経費について助成されます。
補助率 1/2以内 など
IT補助金[17]
ソフトウェア費・クラウド利用料・導入関連費が補助される通常枠は、A類型とB類型の2種類あります。
B類型は補助額が大きい分、満たすべき要件が多く、賃上げ目標も必須になります。
補助率はどちらも1/2ですが、A類型は補助額が30万~150万円未満、B類型は補助額150万~450万円以下という違いがあります。
農業機械には、補助率の高い「ものづくり補助金」で申請[20]します。
ITシステムには「IT補助金」で申請します。
(2)補助金対象機械・設備の減価償却費
農業機械
農業用ドローンDJIMG-1P 130万円
うね立て同時播種USシーダーBS-4US 37万円
ほうれん草掘取機クボタKLH1300 300万円
軟弱野菜調製機クボタNC301 126万円
ブロッコリー収穫機ヤンマーHB1250,A 933万円
合計 1,526万円
農業機械の耐用年数は7年
減価償却費 218万円/年
ITシステム
ネットショップシステム 125万円
ITシステムの耐用年数 5年
減価償却費 25万円/年
補助金対象機械・設備の減価償却費合計 243万円/年
(3)補助金による減価償却費の削減額
補助金による減価償却費の削減額は、
農業機械分上限750万円の 750/7=107万円/年
ITシステム125万円分1/2の 62.5/5=12.5万円/年
補助金による減価償却費の削減額の合計 120万円/年
補助金対象機械・設備の減価償却費合計243万円は、補助金により120万円削減額され、123万円/年になります。
4.農業所得の増加
機械化、IT化による生産性向上で作付面積を拡大し、ネットショップ販売で農業所得の増加を図ります。
また、機械・設備追加にともなう固定費(減価償却費)の増加に対し、補助金で減価償却費増加を抑制します。
(1)農業粗収益増加
ネットショップ販売による販売価格向上で、販売価格1000万円分は2倍されているので、農業粗収益は1000−1000/2=500万円増加します。
(2)固定費の増加
ものづくり補助金、IT補助金により、農業機械、ネットショップシステム追加による固定費(減価償却費)の増加を抑制し、減価償却費増加を123万円にとどめます。
(3)農業所得の増加
ネットショップ販売による農業所得の増加は、農業粗収益増加628万円から固定費(減価償却費)の増加135.5万円を減じ500−120=377万円になります。
農業所得は、野菜作付面積を最大1.0haまで拡大した203万円が377万円増加し580万円でサラリーマン*1以上になります。
*1:令和3年民間給与所得者の平均給与は443万円[13]
まとめ
農業所得向上には、労働生産性と高付加価値化が必要です。
補助金を活用した労働生産性向上とネットショップ販売で、農業所得(露地野菜作)はサラリーマン以上に増加できます。
労働生産性と農業所得向上は、労働負荷軽減と農業経営改善になり、さらに農業後継者問題の解決にもなります。
出展:
[1]:営農類型別経営統計 露地野菜作経営 個人経営体
[2]:第6部 農業経営 - 解 説 - 農林水産省
[3]:ドローンで農薬散布を効率化! DJIのおすすめ農業用ドローンと活用事例
[4]:「播種」体系製品一覧| ほうれんそう |野菜づくり機械化
[5]:ブロッコリー収穫機HB1250,A
[6]:クボタほうれん草収穫機
[7]:クボタ軟弱野菜調製機
[8]:MakeShop HP
[9]:青果物卸売市場調査(日別調査)
[10]:食品価格動向調査(野菜)農水省
[11]:平均月商418万円!【楽天に出店すれば簡単に売れる】はウソですから。
[12]:楽天HP
[13]:令和3年分 民間給与実態統計調査|国税庁
[14]:ものづくり補助事業公式ホームページ/公募要領(14次締切)
[15]:小規模事業者持続化補助金_ガイドブック
[16]:産地生産基盤パワーアップ事業
[17]:中小企業庁 IT導入補助金
[18]:儲かる農業を目指すには!農業の課題と革新的解決策
[19]:【詳説】ものづくり補助金を使った農業の技術革新事例
[20]:【ものづくり補助金申請書】の公募要領に適合し採択される書き方