業種・小売業の起業7事例にみる起業成功の秘訣【前編】

「小売業で起業したい!だけど、業種が多過ぎて何を選べばいいか分からない…」
そんな悩みを抱えている方のために、今回は、小売業の起業事例について徹底解説します。

業種は、雑貨店、菓子店、食材配達店、靴屋、健康分野のEコマース、花屋についてご紹介します。

具体的な成功事例なので、業種ごとの違いやポイントが明確になります。
参考にして、ぜひ起業を具体化してください。

目次

1.リトアニアリネンと雑貨を扱う小売店:ラブディエン[1]

(1)ラブディエン(業種:小売業)の会社概要

会社名:ラブディエン
住所 :東京都品川区西五反田4-1-2 山手通沿い1F
事業内容:雑貨小売業
起業者:横川雅子
創業日:2014年1月

起業者:横川雅子

(2)ラブディエン(業種:小売業)起業までの経緯

グラフィックデザイナ―として2年間メー カーに勤務後、印刷会社でディレクターを務 め、印刷物やウェブサイトのデザイン、商品 のプロモーションに約10年間、携わった。勤 務時代から、将来、「雑貨屋をやりたい」とい う漠然とした夢を横川氏はもっていた。

昔からアメリカやヨーロッパなどの海外に はしばしば旅行に行っていたという。 バルト三国のうちリトアニアの名産のひと つがリネン製品で、自らがプライベートで使 用する中で、“品質がとても良い”ということ に気がついた。

「リトアニアのお国柄や同国 の製品特性が自分にとてもマッチしました」と横川氏。勤務時代からの夢とプライベー トの経験から自然発生的に“リトアニアの製 品を扱う雑貨屋”という事業アイディアが生ま れた。

(3)ラブディエン(業種:小売業)起業当時の苦労

横川氏こだわりの雑貨

その後、2014年1月に個人事業として開 業、3カ月後にホームページを開設してネッ トショップをスタートさせた。

自身のプライ ベートな買い物から「もともと手元にいろい ろな商品を持ち合わせていました」と創業当 時を語る横川氏。

気に入った商品があれば持ち前の明るさと言語能力を武器に、メー ルや電話で現地企業に直接問い合わせて商 品仕入れを行い、約200アイテムの商品を 取りそろえる輸入製品のネットショップ業を 開始することができた。

そのほか「この時 期は並行してアルバイトもしていたため、今 ひとつ思い切って本業に取り組むことがで きなかった」。「集客のために特段 なにもせず、事業が停滞してしまいました」 と厳しい業況の当時を横川氏は振り返った。

さらには、百貨店で行われたイベントで他の 雑貨事業者と話す機会があり、“これくらい の値段で仕入れて、この位の値段で売って いる”という相場感を知り、“自分の値付けが 間違っていること”に気付かされた経験を持 つ。

「リトアニア製品を広めたいという一心か ら、利益をのせていなかったことが間違って いた」と横川氏は当時を振り返った。

(4)ラブディエン(業種:小売業)のマーケティング戦略

実店舗を開業

お店の入り口

複数の大手百貨店の催事や ヨーロッパフェアのイベント、スペースを賃 借して行う販売を通して、店頭販売すれば、 取り扱い製品が売れることを肌で実感し始 めた。「当時は売上の大部分をイベント出店 の販売で占めていました」。
他方、催事売り場での「1週間など期間限定のポップアップショップは準備から撤去まで とても大変な面もあります」と横川氏。

イベ ント販売の手応えから、“自分のお店を出し た方がいいな”と考えはじめ、4年目で思い きって実店舗を開業することを決意。

イン キュベーションオフィスの退居期限を契機 に200万円の出店費用を準備し、雑貨小売 店の出店を実現することが出来た。

横川氏が情報発 信するSNSを見て、北海道や名古屋など遠 方から来る顧客も存在し、常連客は100名 を超えているようである。
現在のメイン顧客は30代から40代の女 性。

取り扱い商品

店内の様子

売上の構成は洋服と雑貨では洋服が雑 貨よりやや多いが、雑貨の一部は観光地の 雑貨店に卸売販売を行うなど、流通経路も 増えつつある。
取り扱う商品は、縫製などがしっかりして おり、品質が良いと横川氏が判断できるも のに限っている。「作り方や縫製は細部まで確認します」と横川 氏。

取引する仕入れ 業者は15社で、半 数の業者からは定 期仕入れを行って いる。取引先は現地 の小規模企業で取 引先工場の製品は、 「日本の他の会社 では売っていない ものがほとんどだと 思います」と横川氏。

「日本人とやりとり するのがはじめて」 という現地の業者も 多く、オンリーワン商 品の取り扱いを実現している点に横川氏は 触れた。

(5)ラブディエン(業種:小売業)の資金調達

創業時、自己資金300万円を用意して スタートを切ったものの、資金繰りについて 「少し甘く考えていたかもしれません」。
「仕入れ資金のやり繰りの大変さを創 業してから思い知らされた」と資金繰りの困 難さを横川氏は振り返る。

(6)ラブディエン(業種:小売業)起業成功の秘訣

高品質のオンリーワン商 品

取引先は現地 の小規模企業で取 引先工場の製品は、 日本の他の会社 では売っていない ものがほとんど。
また商品は、縫製などがしっかりして おり、品質が良いと横川氏が判断できるも のに限っています。

高品質のオンリーワン商 品というポジショニングをとることで、差別化できています。

ECサイトとリアル店舗、SNSのマルチチャネル

約200アイテムの商品を 取りそろえる輸入製品のネットショップ業を 開始。
さらに実店舗を開業し、実店舗 ならではの気づきを得ています。
また、横川氏が情報発 信するSNSを見て、北海道や名古屋など遠 方から来る顧客も存在しています。

マルチチャネル間のシナジー効果が生まれ、経営が安定化しています。

2.素材にこだわり、手間ひまかけたお菓子作り:ロジール[1]

(1)ロジール(業種:小売業)の会社概要

会社名:ロジール
住所 :京都品川区旗の台2-1-15 鷹取ビル1F
事業内容:洋菓子(焼き菓子、ケーキ等)の製造販売
起業者:中村敦子
創業日:2012年7月

起業者:中村敦子

(2)ロジール(業種:小売業)起業までの経緯

中村敦子氏が、お店を持ちたいと思った のは子供のころ。
子供の頃からお菓子作りを していたので、自分が作ったお菓子を食べて くれて、喜んでくれるのがうれしいと感じて いたからである。
人を癒す仕事がしたいとい う思いから、子供のときから自身に馴染みが あった菓子作りの道を選んだ。

老舗の洋菓子店などで約15年 の修業を経て、自分の作ったお 菓子でちょっとした幸せや楽し みを感じてもらいたいという思 いから、懐かしくも素朴な焼き 菓子で店舗を持つ決意を固め て創業。

(3)ロジール(業種:小売業)起業当時の苦労

店舗外観

創業当時大変だったことは、準備も開店 も一人で行ったことであった。
女性であり、 外見が実年齢よりも若く見られるということ で、様々な交渉で苦労した。

特に、原材料の 仕入れ先の選定にあたっては、依頼した一部 の業者に相手にしてもらえなかった。
このと き、最初に働いた老舗の洋菓子店での仕入 先が、中村氏の話を聞いて取引してくれることになった。

(4)ロジール(業種:小売業)のマーケティング戦略

プロモーション

店内ショーケース

中村氏は良い場所を見つけたと思ってい たが、店舗を開いてみてわかったことは、お 店の場所が近隣住人の通り道ではなく、わか りにくいことだった。大学や大学病院が店舗 の近くにあり、主に通院の患者さんが見つけ てくれる場合が多く、近隣住民への認知には 特に苦労した。

新聞の折り込み広告や、沿線 の雑誌への掲載などを利用して、少しずつ 利用者を増やし、さらに利用者の口コミで、 新たに来てくれる利用者を増やした。
時間が かかったが、このような「常連客」には恵まれ たと中村氏は語る。

広告宣伝にお金をかけすぎるのではな く、取材等でのメディアの掲載や口コミで顧 客を増やしている。

看板商品

しながわみやげ認定証

さらに、2014年に品川区 認定の「しながわみやげ」のコンペで選ばれ ている。

 江戸時代、品川は浅草と並んで江戸の紅 葉の二大名所のひとつだったことに因み、区 の木となっているカエデをモチーフにし、も みじの型のパイ生地にメープルシュガーを トッピングして焼き上げた。
もみじの型はあ まりなかったこと、また市販されているもの でよいものが見つけられなかったことから、 思い切って自分で作成するなど、大いに工夫 を凝らした商品であった。

この『品川もみじのメープルパイ』がコ ンペに入賞したことにより、品川の物産展 などで販売。
冊子にも掲載され、その冊子 を見て、顧客も訪れるようになっている。

(5)ロジール(業種:小売業)起業成功の秘訣

人のつながりを大事にする姿勢

最初に働いた老舗の洋菓子店での仕入 先が取引してくれました。
また、創業時の人脈作りを大切にして好意的な口コミを増やました。

人のつながりを大事にすることで得た支援で、起業時の厳しさを乗り越えています。

看板商品

コ ンペに入賞した『品川もみじのメープルパイ』が冊子にも掲載され、その冊子 を見て顧客も訪れるようになりました。

看板商品『品川もみじのメープルパイ』による宣伝効果で、高い集客性を得ています。

3.夫婦ではじめた産直食材配達の店:ままともや[3]

(1)ままともや(業種:小売業)の会社概要

会社名:ままともや
住所: 東京都中野区上高田1-26-14
事業内容: 産直食材配達
起業者: 長谷部 正規(社長)、敏子(店長)
創業日: 2009年7月

店長: 長谷部 敏子

(2)ままともや(業種:小売業)起業までの経緯

ままともや店頭

(店長)実家は埼玉県の野菜農家でした。
大きくなり過ぎ(いわゆる規格外)て出荷できない玉ねぎを持ち帰り、子どもを遊ばせていた近所の公園で幼稚園のママ友さんにお分けしたら皆さん喜んで買ってくださいました。
「玉ねぎは大きい方が剥く手間が省けてラク~」というという意外な発見に自信もわき、農家に生まれたことを活かして生産者と消費者を結ぶお店「ままともや」を開業しました。


(3)ままともや(業種:小売業)マーケティング戦略

商品

(店長)自社農場ままともやファーム(埼玉県深谷市の実家)で直接収穫した減農薬野菜と、選りすぐりの生産者が育てた自然栽培、有機栽培野菜を豊富に取り揃えています。

ままともやファームのブロッコリー

ままともや社長がままともやファームに毎週通い、収穫と近隣農家さんから野菜の仕入れをしています。
ままともやファームでは、ほとんどの野菜は定植時に土壌殺菌剤を使う以外、栽培期間中農薬不使用で栽培されています。

また、こうみゆうきちゃん倶楽部や保志公平さん等から仕入もしています。

こうみゆうきちゃん倶楽部の面々

こうみゆうきちゃん倶楽部は、長野県八ヶ岳山麓の高原に位置し、農薬や化学肥料を使わない農業を営んでいる生産者のグループです。
真夏、関東地方では暑さに弱い葉物野菜は収穫できなくなりますが、小海町は高原なので瑞々しい葉物野菜やミニトマトを届けてくれます。

保志公平さん

保志公平さんは、福井県若狭町海士坂という集落で、農薬の使用を極力抑え生き物あふれる田んぼでの米作りをしています。
十数年間自家採種を繰り返した種籾を用い、一年中田んぼに水を張り続ける冬季湛水によって微生物の活動を最大限に高めた、無施肥・自然栽培のお米を作っています。

無料メルマガ「御用聞きメール」

ままともやでは、店長のメルマガ「御用聞きメール」をほぼ毎日配信しています。 新入荷情報はもちろん、旬の野菜のおいしい食べ方、生産者の横顔、さらに暮らしまわりの面白ネタなどを満載してお届けしています。

デリバリーショッピングサイトに出店

デリバリーショッピングサービスのサイト「Racker」*1に出店し、注文を受けています。

当サイト「Racker」でご注文いただけましたら、自社の専用配達車で皆様のお宅に無料配達しています。
配達エリアは、中野区の店舗を中心に、中野、新宿、練馬、杉並、渋谷、豊島の半径4km以内が対象です。

*1:「Racker」は、新鮮な食品から日用品、総菜やお弁当を、近所のお店から”即日”お届けする、デリバリーショッピングサービスです。
WEB出品、WEB集客、ピッキング、決済代行機能等があり、PCやスマホからの注文が可能です。[4]

(4)ままともや(業種:小売業)起業成功の秘訣

産直食材配達

自社農場や選りすぐりの生産者が育てた、減農薬、自然栽培、有機栽培野菜を、自社の専用配達車で無料配達しています。

健康志向のママ友をベースにした顧客に、利便性を上げた販売で高い支持を得ています。

メルマガ「御用聞きメール」

新入荷情報はもちろん、旬の野菜のおいしい食べ方、生産者の横顔、さらに暮らしまわりの面白ネタなどをメールしています。

御用聞きを兼ねたメルマガで、ママ友と関係性を深め、リピーターの確保が図られています。

4.靴を通じてお客様の行動半径を広げる:靴の一歩堂[5]

(1)一歩堂(業種:小売業)の会社概要

会社名: 株式会社一歩堂
住所: 東京都国立市東1丁目-15-32市川ビル1F
事業内容: 靴販売
起業者: 川井 一平(川井)
創業日: 2008年2月29日

起業者: 川井 一平

(2)一歩堂(業種:小売業)起業までの経緯

靴の一歩堂店舗

大学卒業後、印刷会社で22年間、販売促進の仕事に従事するが、「理論だけではなく自分で実際に商売をしてみることが大切」と考え独立を決意、シューフィッターに転身。
7年前に、国立・旭通りに「靴の一歩堂」をオープン。

靴はもともと好きだった。それに、靴なら食品のような賞味期限はないから、在庫期間が延びても扱える。仕入の経験のない自分でもできると考えた。

(川井)特に婦人靴はヒールがついていて、足に合わせるフィッティングが難しいから、誰も手を付けたがらない。歩いやすい靴を提供できれば、チャンスがあると思ったんです。

(3)一歩堂(業種:小売業)のマーケティング戦略

店舗

国立市を選んだのは、自宅から程近いことに加え、この街には高学歴層が多いからだった。

(川井)「サラリーマン時代に学んだことですが、たとえば商品の原材料表を見る人、店員から話を聞きたがる人は、不思議と学歴が高いんです。当店で扱っている靴にも、うんちくが多い。
こうしたお客様なら受け入れてもらえると思いました。」

製品

プロが選んだ逸品オーダーを超える既製品[6]
外反母趾でも快適に歩ける靴

一歩堂が扱う既製品に有名ブランドの靴はほとんどありません。

中には社員10名前後の小さな工場で作られた靴もあります。
でも、いずれもスタッフが捜し歩き、実際に細部まで目で見て、手で触って構造を確認し、試し履きをし「これならばきっとお客様が喜んでくださるに違いない」と納得したうえで選んだものばかりです。
一見すると普通の靴ですが、歩くとその違いを実感することができるでしょう。

豊富なサイズ
足の形状は人さまざま。顔と同じくらい個性があります。
そこで一歩堂では、長さを21.5~25.5㎝(女性の場合)、幅をA(1Eよりも24㎜も狭い)~Fまで取り揃えました。
一般の靴店の倍以上のサイズ展開です。

サービス[6]

足を計測した上で販売
足の計測

7,000人以上の足を計測した「シューフィッター」が、あなたの足を丁寧に計測いたします。
ただ足の「長さ」と「幅」を測るだけではなく、関節の柔らかさや骨格も見ることにより、よりフィットした靴を選ぶことができます。

何度でも無料で調整
調整作業

お店で履いたら丁度いいと思ったのに、実際に歩くと痛かったりゆるかったり…そんな経験はありませんか?
足は日によって、さらに1日の時間によっても変化するからです。そこで一歩堂では、足に合うまで何度でも無料で靴の調整を承ります。安心してお買い求めください。
一歩堂は靴を売っておしまいではなく、靴をお買い上げいただくところからお客様とのお付き合いが始まると思っております。[6]

(4)一歩堂(業種:小売業)起業成功の秘訣

顧客価値の向上

スタッフが捜し歩き、納得したうえで選んだオーダー品を超える品質の既製品。
足測定し顧客にフィットする豊富な靴サイズの品揃え。

顧客第一の品揃えで顧客満足度をあげることで、顧客価値向上を図っています。

高い専門性

お客様に「足が入る」靴ではなく「快適に歩くことができる」靴を提供。

「シューフィッター」という高い専門性を生かすことで、差別化出来ています。

出展:
[1]:2018年度創業事例集(東京商工会議所)
[2]:2019年度創業事例集(東京商工会議所)
[3]:ままともやは農家がはじめた産直食材配達の店
[4]:RackerHP
[5]:企業診断2007/12
[6]:一歩堂HP