ものづくり補助金を使った中小製造業の技術革新事例
ものづくり補助金[1][2]とは、中小企業等のものづくりを支援することを主な目的として設けられている補助金です。
中小製造業の課題解決には設備投資が効果的です[3]。
しかし先進的機能を持った最新の製造設備は、高額なものが多いです。
そこで、金額の大きいものづくり補助金の活用を検討するのは非常に有効です。
この記事では、もの補助成果事例検索(平成24年度補正事業~令和元年度事業)[4]から、技術革新事例を紹介します。
自社の事業課題を解決するにはどうすればよいか、考えている事業主の皆さんの参考になれば幸いです。
Ⅰ.生産性向上
1.生産の効率化
【複合加工機械の導入】拡大を続けるユーティティビークル車の機能部品受注に於ける生産能力アップとモデルラインの構築
オカネツ工業株式会社
岡山陸用内燃機工業協同組合は岡山県内の発動 機メーカー35社が参画し、熱処理の専用工場を共 同運営するため発足した。
1964年に協同組合の事 業部門を分離する形で、岡山熱処理工業株式会社が発足。
熱処理に加えて農業機械用のトランスミッションなどに使われる歯車の生産を開始した。
トランスミッションと並び駆動系では重要な部品であるデフユニットも生産する。
デフユニットは運 転者のハンドル操作を自動車の進行方向に反映させる部品。ディファレンシャルギアと、ディファレ ンシャルギアを収納するデフケースで構成する。
事業課題
従来、デフケースの加工は6台の金属加工機を使って、6工程の作業を社員が順々に行っており、生産性の向上が長年の課題だった。
事業課題の解決策
そこで、機械メーカーの協力も得て、6工程の作業を1台に集約できる複合加工機械に代替することにした。
さらに加工対象物の脱 着を行う専用のロボットも導入した。
補助事業の成果
複合加工機による加工に切り替えたことより、 加工時間はおおよそ半分に短縮した。
さらに加工対象物を脱着するロボットの導入で、社員が付け替えする手間が省かれた。
従来、2人の社員が交代で24時間張り付いていたが自動で加工ができるようになった。
会社概要
オカネツ工業株式会社
所在地:岡山市東区九蟠1119-1
設立:1964年
従業員数:244人
2.ネック工程の自動化
【外観検査の自動化】自動車用精密加工部品の外観自動検査化および社内ネットワーク管理化
金山コネクタ株式会社
事業課題
当社の主要製品である自動車用精密加工部品の受注が好調で、今後も受注増が見込まれているが、人材不足により生産量に影響を及ぼすことが懸念され、機械化による自動化が急務であった。
本事業申請時、自動寸法検査機と外観検査機を所有していたが、熱処理後の部品表面にムラがでるため、現有の外観検査機での検査は難しく、人の目視による外観検査に依存していた。
また、それぞれの検査データを手入力する作業が発生していた。
事業課題の解決策
高性能レンズに最新鋭2000万画素高解像度カメラ、照明、精密測定器を搭載した自動検査機を導入した。
それにより、これまで人の目視による作業に依存していた外観検査工程を自動化した。
また、自動検査機導入に伴い、社内および工場内をネットワーク化し、検査データの監視・解析体制を構築した。
補助事業の成果
新規自動検査機の導入により、生産数を月産72万個とした場合、これまで12名で検査していたものが半数の6名体制で検査できることが可能となり、生産性の向上およびコスト削減につながった。
また、新規導入器と現有機の検査状況をパソコンにつなぎ、社内および工場内をネットワーク化したことにより、 検査データを共有化することが可能になった。
IoTを活用したシステム構築により、現場にいながら検査機の稼働状況を確認・監視することができる。
24時間稼 働しているため、夜間の作業状況をパソコン上で監視がで き、人員削減や作業および生産効率が向上した。
会社概要
金山コネクタ株式会社
代表者:川島 健二
住所:山形県最上郡金山町大字金山849
設立年:昭和47年12月
従業員:156名
3.IoTによる見える化
【コスト削減と自動化】金属加工のIoT化によるコスト削減と自動化、新加工分野進出
株式会社村上製作所
事業課題
①2008年のリーマンショック以前より、10年計画で若手技術者の育成に励んできました。
その結果、若手技術者は多くなり若手中心の体制となりましたが、精密加工を支えている50歳代と60歳代の技術者と比較すると技術力は低いです。
このノウハウを次世代の技術者に継承することが 課題であります。
②支給材料の品質低下、及び品質のばらつきへの対応力向上が課題
海外製の金属原材料は国産原材料と比較すると成 分・硬度が一定せず切削しにくいものです。
③一つの 部材に100ヵ所以上の穴をあける加工を請け負うことが多く、粗悪な材料では特性に応じてロボット(横中ぐり盤及び縦旋盤)の加工条件設定を作業中に変更する必要があります。
④現状では熟練者が刃物を破 損しないように自動運転機能付きにも関わらず手動モードで切削しております。これを経験のない作業者でも、刃物が破損しないよう、更には夜間でも無人運転できるようにする事 が課題であります。
事業課題の 解決策
金属材料の成分分析と加工ロボットのIoT化 により、加工データを収集してビッグデータ 化を図りました。
材料に応じた加工条件を見出すことで、職人が確認しながら行っている作業の 完全自動化を目指すためシステムを構築しました。
更に最新型の加工ロボットを導入したこと により、加工時間の短縮、刃物寿命の延長を 目指します。
補助事業で購入した機器
①テーブル形横中ぐりフライス盤
②設備稼働監視システム
③携帯型成分分析計
④ポータブル硬度計
補助事業の成果
1)設備稼働監視システム導入により、熟練工がシステムのモニターを見ながら複数の若手作業者に加工指示を出すことで、経験の浅い技術者のレベルアップを可能とし、加工時間の短縮を確認しました。
2)金属成分分析機と硬度計の導入により、成分と 硬さのばらつきを確認できました。特に硬さに ついては、数値の差が非常に大きく加工に影響 を与えている事がわかりました。
3)最新型の加工ロボットを導入したことにより、 大幅に加工時間の短縮及び刃物寿命の延長を確 認できました。30年前の加工ロボットと比較すると加工時間が1/4になり、更なるスピードアップを目指します。
4)建機産業に進出しました。加工時間の短縮により、作業枠が拡大したので、新規案件の受注に成功しました。
会社概要
株式会社村上製作所
代表者:代表取締役 村上 清
所在地: 〒285-0812 千葉県佐倉市六崎560番地
設立:昭和47年4月9日
従業員数:15名
Ⅱ.高品質化
1.加工精度向上
【CNC形鋼切断用バンドソー】金属加工における切断・溶接工程の自動化による労働生産性向上への取組み
株式会社南条製作所
事業課題
1.全工程の中で自動化できている工程と自動化できていない工程が混在。
自動化できていない「切断加 工工程」及び「溶接加工工程」は作業員のアナログな手作業により品質のバラツキにも影響しており、工程 間の流れの中でボトルネックとなっている。
2.新技術への応用が可能なパイプコースター加工技術を用いた「回転貫入鋼管杭」製造への新規参入
回転貫入鋼管杭は、大規模な構造物を支える地盤改良杭であり、将来に向けて、マンションや商業施設に代表されるような大規模な構造物はますます増加していくと予測され、回転貫入鋼管杭の必要性は高まっている。
事業課題の解決策
1.労働生産性の向上⇒働き方改革の実現
従来の切断・溶接工程における加工精度及び加工時 間を分析し、加工面の精度、加工時間、要求される諸 条件を加味して、次の点の課題解決に取組む。
①最新の切断機械及び溶接機械を新たに導入し、製品の各加工工程の自動化を行いながら、加工精度の向上と省人化を図る。
②切断加工工程および溶接加工工程において、工程内の加工精度の均一化を図る。
③一人の作業者が複数設備を効率的に運用し、多台持ち・多工程持ちの実現化を行う。
〈導入するCNC形鋼切断用バンドソー〉
(株)アマダマシンツールの切断機は、高速切断に 優れているという特徴がある。
CNC形鋼切断用バンドソーにおいても、従来機と比較して切断速度が約2倍となる。
〈導入するロボット溶接機〉
設備に付帯するアークセンサ機能により、加工面の 形状を自動的に判断し、曲線ワークや熱歪みにも自動的に補正を行うことが可能である。
〈取り組み内容〉
①工程の自動化による加工精度の向上および省人化
切断加工工程及び溶接加工工程の自動化を図り、作 業員の技量による加工精度のズレを解消する。
その結果、同社の全工程の平準的な加工精度0.5ミリまで加工 精度を向上させる。
また、切断加工工程及び溶接加工工程内の作業員の技術作業を軽減し、工程間の段取り や取替えの時間に引き当てることや、次製品の加工準備に取り掛かる時間に引き当てる。
1製品あたりの加工時間の短縮化を図り、省人化を実施する。
2.作業員多台持ち・多工程持ちによる労働生産性の向上
従前の溶接加工工程に必要とした人員を他工程に配 分するなど、各工程間の人員投入の平準化を図る。さらには、各工程内の自動化を利用して、多台持ち・多工程持ちを行う。
補助事業の成果
1.切断加工工程における加工精度と作業工数
切断機械の調整がうまく行うことが出来ず誤差の数 値は高かったが、目標値はとりあえず達成。
平均値で問題ないが、今後機械の使用によっては誤差が± 0.5mmに近づくと考えられる。
また作業工数も、写真にあるように作業1人で行なっており、作業工数も目標値通りの数値となり、切断加工工程における目標数値は達成したと言える。
2.溶接加工工程における加工精度と作業工数
ほぼ当初の目標値通りの数値となった。
また作業工 数も、写真にあるように作業1人で行なっており、作業工数も目標値通りの数値となり、溶接加工工程における目標数値は達成したと言える。
3.パイプコースター加工の工程間組み込み実現による「回転貫入鋼管杭」製造の実現化
切断加工工程と溶接加工工程の加工精度の均一化により、従来の生産プロセスでは未活用であったパイプ コースターによる切断加工を組み込むことが可能。
「回転貫入鋼管杭」製造という極めて特殊な加工 技術を必要とする事業への新規参入が可能となった。
〈回転貫入鋼管杭製造予測図〉
会社概要
株式会社南条製作所
代表取締役:南条 實
所在地:三重県鈴鹿市広瀬町877番地
従業者数:93 名
2.製品不良の改善
【塗装用ロボット導入】熟練技術者の塗装技術の再現性を高める塗装ロボットを活用した塗装技術の向上
株式会社エイシンフォニー
株式会社エイシンフォニーは、自動車やトラックのライト、カーナビの枠、工作機械のコントローラー等の塗 装を行う事業者として、電鋳治具・銅マスク治具などのマスキング治具を使用した熟練技術者による高い品質の塗装を強みとしている。
事業課題
近年、自動車内装品などの樹脂製品等の塗装に関して艶や光沢のある高度な塗装が求められる傾向にあり、特 にピアノブラック塗装の需要が高まっている。
このピア ノブラック塗装は、10㎛(0.01mm) ほど、膜厚に差 ができてしまうと塗装表面上に凹凸が発生し、歪みが目立ってしまう。
極小の塵や埃でも不良となってしまうこの塗装膜の膜厚の誤差を5㎛以下にしなければピアノブ ラック塗装を実現することができない。
同社では、ほぼ全ての商品を技術者が手作業で塗装するため、平均して10㎛程の膜厚差が生じてしまう。熟練技術者でも5㎛の基準を満たすのは容易ではなく、そ のためピアノブラック塗装が実現できずにいた。
取引先からの要望もあり、同社ではピアノブラック塗装の量産体制を確立すべく事業に取り組むことになっ た。
事業課題の解決策
こうした課題解決に向け、同社では、旭サナック㈱製スプレイ・トレーサー・テーブルパッケージ、川崎重工㈱製スプレイトレーサー対応ロボット塗装装置を導入した。
4台のカメラとスプレーガンに取り付けられたセン サーで熟練技術者が実際に塗装を施したスプレーガンの移動情報、噴霧量などの様々な塗装条件を記録し、データ化を行いロボットに反映することができる。
これによ り、最も膜厚差が少ない製品を塗装した時の塗装情報を データ化し、ロボットで再現することができるように なった。
補助事業の成果
補助事業においては、導入したロボット塗装機が、熟 練技術者の動きを再現できるかを確認するテストを実施 した。
テストの結果、塗料塗布における膜厚差について、平均 10㎛から目標である平均5㎛以下を実現することが できた。
製品不良率は 5% から 2%まで低下し、生産体制が整ったことから取引先 からの要望であったピアノブラック塗装を受注できるようになった。
会社概要
株式会社エイシンフォニー
代表者 : 代表取締役 鈴木智彦
所在地 : 〒438-0816 磐田市宮之一色86-2
設立 : 平成29年5月
Ⅲ.販路拡大
1.製品改良
【金型交換ロボット付き鋼板折り曲げ 加工機】金型交換ロボット付き鋼板折り曲げ 加工機による溶接レス構造の工法開発
安田技研株式会社
事業課題
弊社の製造工程においてボトルネックでもある溶 接接合工程は熟練工の技を要し、品質保持ができな い上、人手不足による技術継承の問題点があった。
そんな折、お客さまの依頼案件の中にリベット締結工法を併用した溶接構造物の製造依頼があった。
それを機に、現状の抜本的改善として全てをリベット工法で締結できればボトルネックの改善・解決の糸口 になるのではないかと考えた。
事業課題の解決策
設計、展開、板金加工の工程と業務内容を再度見 直し、香川県内初となる革新設備「最新金型自動交 換ロボット付き折り曲げ加工機」の導入を実施。
この機械による新生産プロセスにおいて、
①溶接接合と変わらぬ強度と剛性の必要性
②複数パーツを組み立てるためのリベット用の穴と穴を一致させる ために必要な0.2mm内の寸法加工精度
③互いのパーツを接触させる平面度と直角精度
④作業工程の短時間製作
⑤溶接工程から曲げ工程に移る大 な負荷軽減
などいくつか気になる点をあらゆる側面か ら検証した 。
そして、各課題をクリアしていった。
補助事業の成果
①強度と剛性 面接触構造からはめこみ構造に設計変更し、倒れや捻れを強制することで剛性の確保を実現した。
②±0.2mm内の寸法加工精度 加工機が保有する制御機能を使用することで高精 度に加工ができた。
③平面度と直角精度 ストロークを自動補正し、目標角度まで自動補正できるため、正確性もある。
④短時間製作ロボットシステムの自動金型交換機能ATCを 使用し、熟練工でも40分かかるところを短時間 に短縮できた。
⑤曲げ工程による負荷軽減 角度や寸法の測定、手直しの作業がなくなり負 担軽減を実現した。
さらにIoTにより各設備、各作業者の負荷が把握さ れ、最適な作業工程を見出せることが可能となった。
会社概要
安田技研株式会社
代表者:安田 寛造
所在地:〒763-0083 香川県丸亀市土器町2-57
設立:1962年8月
従業員数:85名
2.新製品開発
【超音波ミシン導入】圧着加工の高度化で機能性を高めた新製品の開発
株式会社アステム
空調用ダクト付属機器(主に 制気口、ダンパー、フィルター、排煙口)の設計・開発・製 造・販売を行っている。
商社を通して商業施設などに納 品され、商圏は全国に広がり、その約5割が関東地域だ。
事業課題
業界では、これまでろ材とフィルターを圧 着させレザーシートを被せる際に圧着部分にホチキス を使用してきた。
しかし、近年、食品工場では食品への混入を防ぐため、錆の発生や落下の恐れがある金属部品を取り除く動きが進んでいる。
事業課題の解決策
そこで、金属部品が入らな い加工方法として超音波ミシンを導入した。
「糸を使ったミシンから抜本的に構造を見直したいと思い、超音波で溶着する技術があると聞いて業者に問い合わせました」と第一製造グループ長の菊地俊一さん は語る。
補助事業の成果
糸目に似せたアタッチメントを使い、超振動の 熱によって摩擦熱で溶着していくため、一見糸で縫われているように見えるがホチキスなどの金属部品はもちろん、糸も使われていない。
糸やレザーシートの余りを切 断する手間が省かれ、1枚にかかる時間が9分から5分に短縮され、フィルター部分の有効寸法も広く取れるようになった。
「異物が入らない構造なので、食品工場だけでなく病院などのクリーンルームへもアピール出来るよ うになりました」と取締役の伊藤雅英さん。
会社概要
株式会社 アステム
代表取締役:野口 敬志
所在地:宮城県刈田郡蔵王町矢附字川原脇1-2
まとめ
中小製造業の課題対応「生産性向上」「高品質化」「販路拡大」の要点は技術革新です。
課題対応技術革新事例では、効果的な設備投資と現場的な工夫により、競合を差別化する技術革新がされています。
ものづくり補助金を活用し、是非有効な設備投資をして持続的成長に繋げてください。
出展:
[1]:「ものづくり補助金」が劇的進化!
[2]:令和元年度補正・令和3年度補正 ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(12次締切分)
[3]:中小製造業の現状および課題と対応
[4]:ものづくり補助金総合サイト・成果事例のご紹介
[5]:より高精度を求めるならば、マシニングセンタは3軸よりもやはり5軸